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偽りの雲・・・。

昭和三十年代前半、ある親子が、知人の家を訪ねた帰り、田舎駅のホームで夫婦喧嘩を始めた。

「つかれるな。」父親は嫌気を蔓延させた。

「全く、何でこんなところにまでわざわざ出向いて来なければいけないのよ!」母親も同調した。

「そんな事言ったって、洋の保育園の友達の家じゃないか!」

「洋の友達と言うより、あなたの知り合いでしょ!」

・・・喧嘩はエスカレートしていった。

傍らで夫婦喧嘩を見ていた地元の女性が割り込んだ。

「まあまあ・・・。ここは、公共の場ですから・・・。そう興奮なさらないで・・・。」

「うるさい!」

「そうよ!これは、私たちの家庭の問題よ!」

日曜日の午後、田舎駅で電車を待っている乗客は少ない。

今、田舎駅のホームの上にいるのは、洋一家と、夫婦喧嘩に割って入った地元の女性Sの叔母と、隣町の子供連れの親子と、Sの為に人影を作っていた老夫婦と中年男性であるSのたった10人である。

島型のホームを持つ駅に、電車が進入して来る。

洋と洋の母親民子と、Sの叔母と、老夫婦と、離れたところで電車を待っていた隣町の子連れの親子の目は、進入して来る電車に注目している。

老夫婦の作っていた人影から、女性の後ろに密かに近づき、密かにチャンスを伺っていたSは、靴紐を直すそぶりを見せ、かがみながら叔母の足をすくい、叔母をホームから転落させた。

運転手から見ると、親子が死角を作っていた形になり、Sは見えない。

電車が来る方向と反対を向いていたのは、父親だけである。

当然、父親修の目には、Sの行動が良く見えていたが、何事も見ていないそぶりだった。

「キャッ!」女性は、短い悲鳴を上げながら、顔から線路上に向かって落ち始めた。

「あっ!危ない!」洋は、幼い声を上げながら、女性に向かって右手を差し出した。

電車の警笛が鳴り響く。

Sは、運転手や他の乗客たちの目が、転落した女性に注目する頃を見計らい、何事も無かったかのように、歩き始めた。

転落した女性は、直ぐに動けない。

急ブレーキ・・・。

しかし、女性の身体は、無残にも、二つに轢き裂かれた。

他の数少ない乗客のどよめき・・・。

全ての人々が、女性を轢いてしまった電車と、轢かれてしまった女性の方へ視線を集中させている間に、

Sは、駅の便所に身を隠していた。

・・・・・・・。

駅員は、異常に気付き、ホームに急ぐ。

しばらく後、警察官がやって来た。

事情聴取が始まる。

運転手の証言。

「小さな子どもが後ろから押していた様に見えた・・・。」

困惑する夫婦・・・。

しかし、程なく、父親が母親にささやいた。

「洋は未だ4歳だ。刑事責任は問われない。」

「でも、本当に洋のせいかどうか・・・。」

「洋!押したんだろ!」

父親の脅しに近い強い言葉に、幼児は黙り込む。

「どうなんだ!」

「・・・押してなんかいないよ・・・。」

しかし、運転手の目撃証言もある。

警察官が詰め寄る。

「坊や、本当の事を言ってごらん。」

「・・・押してないよ・・・。」

「でも、本当は押したんだね。」

仕事を早く終えたい願望が、警察官の誘導を促していた。

黙り込む幼児。

警察官は傍に居た老夫婦に聞いた。

「この子が押していませんでしたか?」

「ええ・・・。」

老夫婦は言葉を濁しながらも肯定した。

隣町の親子連れにも聞いた。

「この子が押していませんでしたか?」

「わたしたちは、離れたところに居て、電車の方を見ていたので、わかりません・・・。」

老夫婦は、Sにお金で雇われていたSの共犯だった。

Sが身を隠す人影を作る役割と、幼児が突き落とした旨証言する証人を依頼されていたのだ。

Sは、老夫婦に各々一万円ずつ渡し、依頼した。

戦後ようやく経済的に安定した社会になりつつあった当時の日本・・・。

しかし、地方の経済は、まだまだ貧しかった。

新たな職を得る事が難しい老夫婦にとって、夫婦合わせて二万円というお金は、十分に心を動かした。

普通に検証するなら、幼児が片手で押した程度では、大人がホームから転落する事などあり得ない。

しかし、父親の欲望と、警察官の願望は大きかった。

程なく、幼児の悪戯、刑事責任無し、事故扱いという結論が出され、事件の幕は引かれることとなった。

(大人には、本当の事を言っても無駄なんだ・・・。

何よりショックだったのは、見ず知らずの老夫婦までもが、洋のせいにした事だった。)

洋は、心に鎧を被った。

人々が事故処理に熱中している間に、Sは、誰も居なくなっていた改札口を抜け、駅から2分ほど離れた場所に留め置いておいたバイクに乗り、興奮気味に、帰宅した。

・・・・・・・。

洋の家族が奇妙な小旅行を繰り返すようになったのは、洋がミッション系の保育園に入園した直後からだった。

保育園の父母顔合わせで、洋の父親は、戦争中まで住んでいた所で友人だった男の名字を見つけた。

何の気無しに、

「まさか、S○○さんのご親戚ではありませんよね。」

「えっ。」Sちゃんの父母はちょっと驚いて、

「そうですけれども、お宅様は・・・。」

「あちらに居た時の○○の友人です。今、○○はどうしてますか?」

「○○は、今、関東平野の別の県に住んでいます。」

「会いに行きたいなぁ。」

「連絡先をお教えしましょうか?」

「是非とも。」

その日家に戻ると洋の父親は、S○○に電話した。

休みの日に暇を持て余していた父親は、直ぐに、Sの家を訪ねる話しに乗った。

次の日曜日だった。

朝早くから、家を出た洋の家族は、

乗り継ぎの悪い電車を乗り継ぎ、関東平野にある地方ターミナル駅I本駅に付いた。

Sの話しでは、其処から、タクシーで直ぐだと言う。

「え~と、キリシタン通りを行ってもらって、松路島団地の入り口で降りれば・・・、いいんだな。」

洋は、父親の話しを聞き取っていた。

タクシーに一家が乗り込むと、洋が言った。

「キリシタン通りに行ってください。」

幼児の言葉に、とまどう運転手・・・。

「ええ。キリシタン通りにお願いします。」

母親がフォローした。

「坊ちゃん、良く言えたね。」運転手は微笑みながら、車をスタートさせた。

舗装されていない田舎道を少し行くと、キリシタン通りに入る。

「この先、どちらへ?」

「松路島団地の入り口へお願いします。」

また洋が言った。

「それでよろしゅうございますか?」

運転手は軽く確認を取った。

「ええ。」母親が応じた。

程なく、松路島団地の入り口に着いた。

外を見ると、Sが待っている。

「遠いところおつかれさん。」

「久しぶりだなぁ。」

・・・。

父親とSは、男同士、親交を深め合う会話を続けた。

「ねぇ。どうして海がないのに、島なの?」

洋は幼児が当然疑問に思う事を訪ねた。

Sの顔が曇った。

「そういう事は、聞かないの。」

母親は、理由も説明せず、洋を制した。

・・・・・・・。

一回目の訪問時、Sはまだ、団地住まいだった。

団地の部屋で、二時間ほど茶飲み話をした後、

洋の一家は、帰路に付いた。

・・・・・・・。

次回の訪問は、二ヶ月後だった。

それは、Sからの電話だった。

「新しい家に移ったんだ。見に来ないか?」

「もちろん。」父親は、直ぐに快諾し、翌週の日曜日に小旅行が始まった。

同じ、地方のターミナル駅から、タクシーで、しかし、今度は、少し遠かった。

「県道を行ってもらって、馬塚で右折・・・、そして、お寺と農協の間の道を少し行った後に左折・・・、公園を過ぎて、小学校のバス停の前で・・・か・・・。」

前回同様、洋は、父親の話しを運転手に伝えた。

タクシーは、無事、小学校前のバス停に着いた。

やはりSが待っていた。

・・・・・・・。

帰宅時、父親は、Sに帰り方を聞いた。

「本当は、I本駅より、新I本駅の方が少し近い。

もっと言えば、小さな駅だが、G丘駅が一番近い。しかし、G丘駅へ向かう道の橋が架け替え中だ。

私鉄で帰るのなら、I本駅と同じ位の距離で、G丘駅の先の酒野町に行ける。

バスは、I本駅と新I本駅行きがあるが、どちらも、まだ、当分来ない。」

「時間があるから、タクシーを頼む。」

洋の一家は、酒野町に向かった。

「意外と高いなぁ。」

酒野町駅で料金を払った父親は思わずこぼした。

・・・・・・・。

数ヶ月が経つと、またSから電話が入った。

どうしても話したい事があるから来てくれとの事だった。

Sの家に洋一家が居た時、母親が中座した時を見計らって、Sは父親に話しを持ちかけた。

「叔母が邪魔なんだがなぁ・・・。」

Sにとって、同じ組織に属していながら、位も上で、考え方が違っていた叔母は、目の上のタンコブだった。

叔母は、「戦争も終わったのだし、皆、仲良く・・・、もう、恨みっこ無しだよ・・・」と、

国家乗っ取り工作や、国民弱体化工作には否定的だった。

しかし、Sの思いは違っていた。

上辺では、父親との友人関係を装っていたが、内心では、何事でも、自分の方が常に上で無ければ気が済まない。

幸いにも、体力勝負では、Sの圧勝だったが、学力では、父親に劣り、Sが持っていた人脈で父親より優位になりそうなものは工作組織くらいだった。

Sは、本国組織の意向に、賛同し、叔母の殺害を了承した。

本国の組織からの資金で、Sは新築建売の一戸建てを手に入れていたのだった。

もはやSに後戻りは許されない。

洋一家を利用する殺人法は、Sの思いを充足させると共に、本国との約束も果たす好都合の道だった。

「邪魔なら殺してしまえばいいじゃないか・・・。」

Sの表の顔しか知らず、戦争体験もある父親は、冗談のつもりで持ちかけた。

「・・・俺も、色々、手口を考えているんだが・・・。

それには、お前の協力が要る。

否、お前たちの・・・と言うべきかなぁ・・・。」

「どんな手口だ?」

父親は興味本位で聞いた。

「例えば、お前たちが家に帰る時、電車に乗るだろ・・・。

駅のホームに叔母を呼び出しておいて、

例えば、お前たち夫婦が喧嘩をする。

世話好きな叔母は、きっと割って入るだろうから、

その後で、ホームから突き落とす。

周囲の人々は、お前たちのせいだと思うだろう。」

「冗談じゃない。それじゃ俺たちは犯罪者になってしまうじゃないか。」

「そこで・・・、だ。犯罪者にならない方法がある。」

「・・・。」

「そうだ、お前の子どもを利用するのさ。」

「子どもはダメだ!」

「何、未だ幼いから、何も解りはしないさ。

ただ叔母の傍に子どもが居れば良い。

幼児のせいなら、刑事罰には問われない。

お礼はたんまり出すぜ・・・。」

学歴の割りに低収入だった父親は、少し考えて、

「いくらだ?」

「コレだけ・・・」Sは指を示した。

「5万か・・・?」

当時の父親の月収は、万に満たない。

「そうだ。」

「しかし、駅のホームでは、他の乗客もいるだろう?」

「I本駅や新I本駅なら、その通りだが、新I本駅のとなりのG丘駅なら、日曜日の乗客などほとんどいない。

そして、叔母の家の最寄り駅は、そのG丘駅だ。

時間を選べば、駅員もたった一人になる。」

「万一乗客が多く、バレそうな時は、中止。乗客が少なく可能・・・となれば、実行だ。」

「何時やるんだ?」

「また日を改めて、家族で来てもらいたい。その時までに、準備する。」

「先に手付けをくれ。」

「今はこれだけしかない。」そう言うと、Sは、三千円を父親に渡した。

「次回の交通費にでもしてくれ。残りは、次に会った時半分、事が上手く行ったらもう一度来て貰って半分・・・でどうだ・・・。」

「・・・わかった。それでいいだろう。」

傍らに居た洋は、大人の話しを何となく聞いていた。

Sは不安そうに聞いた。

「その子に・・・、今の話の内容は、大丈夫か・・・?」

「大丈夫だ。まだ三歳だ。何もわからない。」

Sは、それでも不安だった。

年齢の割りに長旅で疲れ、ぼんやりと大人たちの話しを聞いていた洋には、話しの内容は良く解らなかったが、雰囲気から何かを感じ取っていた。

一家は、バス停に向かい帰路についた。

交通費を貰ったのにバスを利用したのは、父親の後ろめたさが成せる業だった。

硬い乗り心地の田舎のバスは、舗装されていない道を新I本駅に向かって走って行った。

・・・・・・・。

洋一家が来る前の日、Sは、叔母に電話した。

「叔母さん、お話ししたい情報があります。酒野町まで、一緒に行って頂けませんか?そこで、ある人と一緒にお話しします。」

「どうすれば良いんんだい?」

「明日の午後四時前に、G丘駅のホームで待っていて貰えませんか?私は、ちょっと仕事を片付けてから、電車に乗って、G丘駅に向かいます。」

「四時前の電車で来るんだね。わかったよ。」

叔母は、簡単に返事した。

・・・・・・・。

Sからの電話による打ち合わせ通りに、次の訪問が行われた。

洋は誕生日を迎え四歳になっていた。

「何で、また、Sさんの家に来たの?すごく、遠いのに・・・。」

「お前のお友達の親戚だからに決まっているだろ。

いつも、Sちゃんには遊んで貰っているじゃないか。」

父親はそう言うが、洋は、Sちゃんと遊んだ事などほとんど無かった。

保育園にいる間は、仲良く話すのだが、それ以上でも、それ以下でも無かった。

「Sおじさん。この辺に何があるの・・・?」

Sは、幼児のたわいも無い質問の答に窮した。

工業団地に隣接させて新興住宅地として開発されたばかりのその町には、子どもの喜びそうな物など何も無かった。

しばし考えて、Sは言った。

「そうだね・・・。市民センターに行くと大きな体育館があるよ。」

「体育館じゃ、つまんないや・・・。後楽園とか無いの・・・?」

「洋、後楽園じゃなくて、遊園地でしょ・・・。」母親が、バツが悪そうにフォローした。

Sの顔は曇っていた。

(俺は、また、未だに、こんな幼児に馬鹿にされるようなところにいるのか・・・。

団地の時は、「島なのに、海は?」今度は、「何もないの?」だと!)

少し不機嫌になった本当の理由は、これから行おうとしている犯罪に対するプレッシャーゆえだった。

しかし、自らの深層心理に対する自覚薄きSは、全ての原因を、目先の物事に勝手に求める。

たわいも無いお茶のみ話しが終わると、帰宅の時間になった。

何しろ、片道3時間もかかるのだ。

早々に帰らなくては、幼児にとって好ましくない時間になってしまう。

「それじゃ、御いとまするよ。」

「色々お世話になりました。」

「タクシーの来るバス停まで、お見送りするよ。」

「いや、ここで結構。」

橋の修理も終わっていた。

一家は、タクシーを利用し、Sの指示通りに、G丘駅経由で帰路に着いた。

・・・・・・・。

親子がSの家を出た時、空には光る雲が出ていた。

下を向きながら歩みを速める親子をよそに、

「きっと上手く行くぜ・・・」

Sは、雲を見上げながら、自分に言い聞かせていた。

普段と違う自然現象を見た時、人は、何かを期待する。

しかし、大自然を見て勝手に期待する内容は、人それぞれに違う。

Sの期待は、明らかな、邪まな期待だった。

Sは、バイクに乗り、車の通れない近道をG丘駅に急いだ。

タクシーに乗った一家が駅に到着する5分前、Sは、駅から、歩けば2分ほどかかる離れたところにバイクを止め、駅に急いだ。

当たり前のように酒野町までの切符を買い、早々に、駅の便所に身を隠し、老夫婦を待った。

老夫婦は、Sから言われていた通り、酒野町駅までの切符を買い、便所のSに合図をして合流し、ホームに上がった。

屋根さえ無い田舎駅のホームには、Sが身を隠すのに都合の良い場所も無い。

おまけに通常の日曜日なら、乗降客もほとんどいない。

Sの叔母は、最寄り駅であるG丘駅の状態を良く知っていたが故に、油断をしていた。

Sは、叔母の心理の裏を突いたのだった。

Sは、老夫婦を盾にし、駅員からも洋一家からも姿が見えない位置をキープしながら、ホームの中央に陣取った。

改札からより遠い位置には、その地方の親子連れが既に陣取っていた。

洋一家が乗ったタクシーが付いたのは、その後直後だった。

小さな地方駅では、国鉄までの通し券を売っていなかった。

一家は、仕方なく、その私鉄で行ける久樫までの切符を買いホームへ向かった。

Sとの打ち合わせ通り、父親は、老夫婦の手前に洋と母親を誘導した。

電車の到着までには、未だ時間がある。

親子は、たわいも無い話しをしていた。

15分後、Sの叔母が酒野町までの切符を買い、ホームへ上がった。

世話好きな叔母は、幼児を見つけると洋一家に近づいて行った。

近づいて来る中年女性を確認しながら、父親は、嫌気を蔓延させ始めた。

・・・・・・・。

本国の工作組織とSにとって邪魔だった叔母が亡き後、Sは叔母の利権を相続した。

・・・・・・・。

洋にとっても大きなショックとなった事件の後、一家の不可思議な連続訪問もパッタリと途絶えた。

しかし、事件の一週間後、父親は、久樫駅で、Sと合い残りの報酬を受け取っていた。

「これで、しばらくは会わない方が良いな。」

「そうだな。」

「変なきっかけになっても困るから、保育園も変わってもらいたい。」

「・・・う~ん・・・。・・・わかった。妻に話してみよう・・・。」

年度替わり時に合わせて、母親は、洋に大学の付属幼稚園を受験させ、洋一家は受験に合格した。

幼稚園で、平穏な二年が過ぎた。

洋の小学校進学の時期がやって来た。

教育熱心な母親は、洋に国立の小学校を受験させ、一家は抽選にも当たり、国立小学校への入学を手にした。

組織の人間からその話しを聞いたSの心には、不安と不満が充満した。

「国立校に入る程、優秀なガキなら、将来、事件時の事を思い出して、何を言い始めるかわからない。

今の内に潰しておかなくては・・・。」

Sは、久しぶりに父親と連絡を取り、高圧的に要求を突き付けた。

「坊やの将来にキズを付けたくなければ、これから言う通りにするんだ。」

「何を言う。犯罪行為がバレたら困るのは、あんただろ!」父親は反論したが、Sは反論を無視して話しを続けた。

「簡単な事さ。坊やに肉を食させ続ける事だけだ。」

洋一家が暮らしている町には、Sの組織が押さえている肉屋があった。

「どういう事だ?」父親には、Sの意図が解らない。

「坊やに肉を食べ続けてもらえば、知り合いの肉屋に固定客が付く事になる。別に毒を食わそうという訳では無い。強制的に、売り上げに協力して貰いたいダケだ。」

「たいした額にはならないだろう。」

「ブタや鳥ではダメだ。牛を買うんだ。」

当時の日本では、牛肉はまだまだ高い代物だった。

父親には、Sが脅す訳が解らなかったが、牛肉を食べさせる事ぐらいは出来ない話しでは無かった。

「うるさいヤツだな。わかった。わかった。」父親は渋々了承した。

硬い牛肉は、虫歯を作り易く、

牛肉とお茶の組み合わせは、血流を阻害し易いがゆえに脳力を阻害し易い。

・・・・・・・。

Sの本当の思惑を知らない洋の両親は話している。

「洋の成長の為には、牛肉を食べさせなくては!」父親は、母親に何度もうるさく要求した。

「どうしてよ。牛肉、高いじゃないの。」

「とにかく洋の為だ。食べさせればいいんだ!」

父親からのうるさい要求と、肉料理の簡単さが、母親を動かし、洋の食事には、しばしば、安く硬い牛の焼き肉が出るようになった。

半年も過ぎると、洋の歯は虫歯だらけになっていた。

塩で歯を磨いていた人々も少なく無かった当時、歯医者の一家でも無い洋一家の人々には、十分な歯のケアが出来る訳も無い。

洋は近所の歯医者に行かされた。

洋は、虫歯でも無い歯を削られ、訳のわからない金属の詰め物を次々とつめ込まれて行った。

歯医者は、Sの組織の配下にあり、Sの命令で、長期的には人体に有害となるように配合した金属を詰めたのだった。

摘発されない殺人法の実験の始まりだった。

継続的に弱い毒を摂取させ、死に至らしめれば、まず、摘発されない。

日本の法律では、弱毒物や少量の有害物などを継続摂取させた時に、取り締まる適当な法律が無いのだ。

意図的にや、悪意は、他の物事でも、急変でも無い多くの場合、立証が困難である。

また、その様な手段で人が死亡してしまっても、満足な検死解剖や調査が行われるケースは稀なのだ。

・・・・・・・。

洋は、だんだんと頭の調子も悪くなり、身体も虚弱体質化したが、幸いにも生きて小学校三年生を迎えた。

焦りと、いらだちがSの中に充満していた。

Sは、父親に電話した。

簡単な世間話しの後、要求を突きつける。

「今度の週末にでも、坊やを近くの○○という焼き肉店に連れて行ってもらいたい。

ご馳走して上げたいモノを用意しておく・・・。」

「食べても大丈夫なモノなんだろうな。」

「もちろんだ。大物になる子は、皆食べる。

・・・そして、おまけも付いている。万一の事があれば、お詫びをタップリと出す。」

「・・・・・。」父親は、言葉に詰まった。

当時の父親は、独立して商売を始めたが、上手く行っていなかった。

組織から、その情報を得ていたSは、強気だった。

「(殺す・・・とは、言っていない・・・。)」父親は、お金を思い都合の良い解釈をした。

・・・・・・・。

一家は、土曜日の夜、近所の焼き肉店に行った。

親子とも、当時にしては、豪華なご馳走をタップリと食べて、帰宅した。

・・・・・・・。

夜半だった。洋がうなり始めた。

高熱と脱水状態に陥り、それは、朝になっても一向に改善しなかった。

母親は直ぐに医者を呼ぶ事を強く主張したが、父親は、「食べ過ぎだろ。」と応じない。

昼近くになっても、症状は酷くなる一方だったので、母親が医者を呼んだ。

家にやって来た医師は、高熱と脱水症状を診断すると、当時として、考えられる手当てを施して帰って行った。

「昨日、焼き肉屋で、変なモノをたべさせられのでは、ないの・・・。」母親は心配そうにつぶやいた。

「沢山の肉を食べるのに慣れていなかっただけだろ。」父親は相手にしない。

翌日も、翌々日も症状は好転しない。

さすがに、父親の言い分は通らなくなった。

直ぐに、大学病院への入院が決まった。

洋は一週間の入院の末、無事帰宅出来た。

組織から、その情報を得たSは、不満そうにつぶやいた。

「歯医者だけでは無く、医者も押さえておかないとダメだな・・・。」

・・・・・・・。

しかし、犯罪者の心理など休まる時がある訳も無い。

「全てを覚えているかも知れない子どもも始末しなければ・・・」との思いは、Sの頭には充満し続けていた。

幼児にバカにされた思いも何度も繰り返し思い出していた。

Sの実験は、時と共にエスカレートして行く。

組織を使って実験を行う事は容易かった。

「あの子は、殺人者だ。こらしめてやらなければ。」

「あの子は、人を殺している。そんな人間は、順調な人生を歩んではいけない。」

・・・宗教団体の仮面を被った工作組織の構成員は、幹部からの命令に忠実である。

・・・・・・・。

幾度と無く、食べ物の中に、摘発されない毒・・・。

歯の詰め物や、肉屋の肉、出前持ちを使って出前の品等々、少量の有害物質や毒物を継続的に少しずつ・・・。

あらぬ噂を子どもの周囲で流し、精神的に追い詰める・・・。

電気を使って、遠隔殺人が出来ないか・・・?

・・・。・・・。

そして、全ての研究や実験データは、

Sが密かに属している母国の工作組織でも役立った。

Sは、工作組織でも出世した。

・・・・・・・。

時は過ぎ、東西冷戦も終わり、

世界的に平和ムードが蔓延する中、

Sの摘発されない殺人実験は、未だに続いている。

・・・・・・・。

普段と違う雲を見上げて、吉兆と偽る自分を健康的にコントロールしない支配者になりたい愚か者。

愚か者の行く末に、

断末魔を迎える前に待つべき物事は、

偽りの雲を破る光の嵐にさらされたお白洲と相場は決まっている。

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