オタクの聖地。美少女フェギア販売店前。店長の高級車に男が乗り込んだ。車の中で店長と友人が話している。
「売れてるかい?ヤク。」
「ああ・・・。マアマアだね。今日の接待分くらいは楽勝さ!」
「それじゃ行こうか!お楽しみに!」
「お楽しみじゃない。難民救済だ!」
「何処が!?」
「お金が無くて、身体まで売る若く哀れな女性たちに、救済資金を提供しに行くのさ・・・。」
「相変わらず、屁理屈が上手いなぁ・・・。美少女フェギアというヤクを売って、その上がりで、実際の美少女を買っていて・・・。救済とは、コレ如何に・・・。」
「お前だって、同類だろ!」
「オレは、趣味!男の本懐・・・。素直なダケさ・・・。」
5リッターの高級車を運転する店長の横顔には、笑みがこぼれていた・・・。
二人が乗った高級車は、中央高速を西へ走る。
「飛ばし過ぎじゃないの・・・。大丈夫か・・・?」
「周りが避けるから、大丈夫に決まってんだろ!ぶつけたら高く付くばかりか、相手のダメージの方が圧倒的に大きくなるデカイのに乗ってんだから・・・!」
「取り締まりは、大丈夫なのか・・・?」
「相変わらず、気の小さなヤツだな。ケーサツなんて、公務員よ。出来れば仕事なんて、したく無い、金だけ欲しいってヤツがゴマンと混じっているのさ。ちょっと飴玉やれば、取締り情報なんて簡単に手に入る。今日は大丈夫だ。おまけにコイツがあるからな。」・・・と言って、GPS機能付き取り締まり器検知装置を指し示す・・・。
さすがに大きな高級車だけあって、何事も無いように車内は静かだ。決して路面が良いわけでは無い中央道でも、ほとんど不快なゆれも無い・・・。
小さく見える他の車が次々と、後方へ流れ去って行く・・・。
二人を乗せた車は、トンネルの中に吸い込まれて行った。
前に、道路会社の管理用大型四駆が見える。
「遅いくせに、追い越し車線を走りやがって!」
車は速度を落とし、四駆の後ろでパッシングのサインを送った。程なく、四駆は左側車線に移った。
二人して、避けた四駆に目線を配りながら、再加速・・・。高級車は、路面の継ぎ目を通り過ぎるようなショックを、楽にいなし、通り過ぎるトンネル内の風景のみを加速した。
・・・・・・・。
「このトンネル長すぎないか・・・?」
「そうだな・・・。とっくに抜けている筈だが・・・。」
周囲を見ると、他の車は無い。
「おかしいゾ!」
「ヤベー!知らない間に事故って、死んじまったか!?」
「嘘だろ・・・!」
「待てよ・・・。止まって見るから・・・。」
アクセルを緩め、ブレーキを踏もうとした瞬間、濃霧に包まれる・・・。焦りも加わり急ブレーキ。
車は、大きなブレーキ音を上げながら急停車した。
「マジ・・・、死んじまったか・・・?」
「二人同時にか・・・?」
「たぶん・・・。」
「やっぱ、死後の世界ってあったじゃん・・・!」
「そんな事言ってる場合か・・・!」
「降りてみるか・・・?」
「地面あるんだろうな・・・。」
「どうせ、死んじまったのなら、関係無いだろ!・・・」
車のドアを開けようとした途端、大声が響く・・・。
「汝!降りるでない!」二人の耳に、それぞれ一人ずつに届いているような声が響いた。
「何なんだ~!」二人は大慌てで、身体を固くした。
「汝!聞くが良い!」
「やっぱ、死んじまって、裁かれるんだぁ~!」
「マジかよ・・・。」
「汝、・・・大馬鹿者よ!」大声は続いた「額を見るが良い。」
店長がルームミラーで自分の額を見ると、レーザーポインターの赤い点が見える。
助手席の友人は、顔を横に向け、店長の額を見ながら「ヤベっ!!動くな!」
程なく、自分の顔にもレーザーポインターが合わされていることに気付き「俺もか!」と身体を固くした。
「どうやら、拉致されちまったみたいだぜ!」
「そのようだな・・・。」
・・・・・・・。
「俺たち、・・・どうするつもりだ・・・。」震え気味の頼りない声が車中に響いた。
「・・・あの~。オレたち、死んで無いんですよねぇ・・・。」車を運転していた店長は、自分の状態が信じられていない。思わず、確認を求めた。
落ち着いた声は、直ぐ答えた。「死んだと言えば、死んでいる。」
「・・・やっぱり・・・。マジかよ~・・・。」店長の情けないつぶやき・・・。
「マジかよ~。・・・。」店長の言葉を受け、友人も下を向く・・・。
「汝、義務教育は受けているのか?!」
「・・・何?・・・なんで、今更、義務教育なんだよ~。」
「汝、思い出すが良い。」
「何を!?」
「どうして子供が大人になれるのか?!」
「そりゃ、新陳代謝しているからだろ・・・。」
「その通りじゃ。新陳代謝はどの様に起こっておる?!」
「・・・細胞ごと・・・に・・・、入れ替わる・・・。」
「そうじゃ。汝の死は、細胞ごとに起きておる。」
「そんな事解ってるよ!・・・」
「解っておらん!解っておるなら、毎日、今、この瞬間も、死を体験しているのに、死んだのか?と何故聞く・・・?!」
「でも、死んだんじゃ・・・?」
「だから、細胞ごとに死んでおる!」
「じゃ・・・?未だ、生きている・・・??」
「汝の存在は続いておる!・・・だから、そうして話せている!」
「・・・じゃぁ・・・!お前は誰よ?!」生きていると解り、少し強気になった声が響いた。・・・が、直ぐに、レーザーポインターの光が強くなり、二人は暑いものを感じ、弱気に戻る。
「そんな事は、後で解れば良い!それより、汝の認識では、死さえちゃんと理解出来ていなかったのではないか?!」
「うるせえ・・・。そんなの、・・・関係ないだろ・・・。」と元気無く反論した。
「汝、人生の根幹に係わる物事が関係無いのか!!!」
「・・・・・・・。」
「・・・皆同じようなものだと、思うけど・・・。」
「皆が同じなら、それで良いのか!」
「その方が、楽しいじゃん・・・。」
「では、汝に戦場を与えよう!皆と同じように殺し合いを行うが良い!・・・殺すか?殺されるか?は、汝次第じゃが、新参者ゆえ武器は持たせぬ!」
「・・・武器無しで、戦場だと・・・!殺されるに決まってるじゃないか!」
「冗談じゃない・・・。」
「戦場で殺し合いをする。・・・皆と同じじゃぞ!ただし、この社会同様に、相応のハンデを付けてある!新参者!行くが良い!」
「ちょっと待ってくれ!ハンデは無いだろ・・・。せめて、武器をくれ・・・。」
「そうだ!・・・あまりにも不公平だ!武器ぐらいよこせ・・・。」
「汝、自分の行って来たことを振り返るが良い。」
店長は、親から受け継いだ販売店で、今や下火となり仕事を欲しがっている人形屋に安い制作費で、時流に合った商品を作らせ、人気ゆえに高額で売り、その差額でボロ儲けしていた。
儲けたお金を元に、理工系に進んだ同級生へ情報料を払い、情報を得て、株の売り買いを行っていた。
「バレないインサイダー」は、元金の大きさゆえに、かなりの利益を上げていた。
友人は、同族会社を親から受け継いだ3代目経営者だった。経営者と言っても、仕事は簡単だった。実務は、安い賃金で働かせている現場実動者任せ、儲けが薄ければ、雇ってある現場管理責任者に改善を要求する・・・。それだけだった。趣味はバンドだったが、同様の世襲経営者たちとゴルフへも良く行った。バンドの為の練習も、お仲間ゴルフも「仕事」だった。
戦略的営業を仕掛けてライバル会社と競争すれば、ライバル会社との消耗戦になる。そこで、親の代には既に、お互いに既得権益が守れるように、業界団体という親睦組織が作られていた。業界団体は、既得権益を守り、新参者の受け入れを拒むように、団体幹部に任せた政界工作まで行っている。
規制緩和の波が押し寄せても、政界防波堤は上手く機能した。
「・・・・・・・。」何も言えない二人。
「汝、それでは、戦場へ行くが良い!」
「・・・ちょっと!待って!待って!・・・」焦っている震えた叫び声。
「・・・やめる!やめるってば・・・。」
「何をじゃ?!」太い声が響く。
「皆と同じ・・・、やめる・・・。」
「では、どうする?」
「・・・・・・・。」
「・・・わからない・・・。・・・わからないから、答えをくれ・・・。」
「図々しいやつ等め!答えを見出そうともせず、答えをくれとな?!」
「・・・は、ハイ・・・。」
「では、その代わりに何をよこす?!汝の命か?」
「ちょっと、待って・・・、それはあんまり・・・だ。」
「・・・金、金を出す・・・。」
「ほう!搾取・略奪した金を、右から、左へと差し出して、命ごいか?!」
レーザーポインターの光が強くなり、二人の皮膚も暑くなる。「・・・・・・・・。」
「・・・勘弁してくれ~・・・。」
・・・・・・・。
しばらくして、太い声が響いた。「汝、真実を認めるか?」
「・・・は、ハイ・・・。」
「では、汝は、生きておるか?」
「・・・ハイ・・・、細胞ごとに誕生・死を繰り返し・・・、存続しています・・・。」
「汝、他の人と違う人間か?!」
「いいえ、他の人と同じ人間です・・・。」
「ならば、何故、同じ人間から搾取・略奪を行う?!」
「・・・・・・・。」
「・・・わかりません・・・。・・・気付いたら、・・・そう、していました・・・。」
「・・・皆と同じように・・・。」
「皆と同じとな?!」
「・・・いいえ!・・・いいえ!・・・違い、ます・・・。」
「何が?じゃ?!」
「・・・戦場は、嫌・・・です・・・。」
「自ら、立場の弱い人々を戦場に送り込んでいて、自分は、戦場が嫌と申すか?!」
「・・・止めます・・・。止めます・・・よぉ・・・、勘弁して下さい・・・。」
・・・・・・・。
「未熟者よ!!!自分で良く考えるが良い!!!」
・・・・・・・。
霧が濃くなり、止まっている筈の車が、突然後ろへ引っ張られた。ガタンという振動の後、雰囲気が変わる。
次第に霧が晴れると、二人の乗った車は、トンネルから出た高速道の緊急車両通行車線に在った。
・・・・・・・。
しばらくして、店長は、我に返り、再び車を走らせ始めた。
二人は、無言のまま、店長の車は、当初の予定の温泉街を目指さず、富士方面へと左折した。
富士山の麓、自殺の名所ともされている森林の近くで、車は止まる。
「まさか・・・。自殺するつもり・・・じゃないよな・・・。」友人は、ようやく声を出した。
「いや・・・。頭を冷やしたい・・・だけ・・・さ・・・。」店長はつぶやく。
狐につままれたような出来事だったが、二人には、何も考えずに現状に溺れていた普段の生活より、ずっと実感が有った。
「何なんだ・・・。」
二人の中で、何かが、変わりつつあった。
・・・・・・・。
「とりあえず、深呼吸でもするか・・・?」店長は、車を降り暗闇せまる森に向かって深呼吸した。
「・・・気持ちいいぜ・・・。」
友人も車を降りた。森を見ている。
「オレたち、何の為に、存在してるのかなぁ・・・。」
「・・・・・・・。」楽しむために決まってるじゃないか・・・店長は、何時ものように、そう答えようとしたが、声にならなかった。
沈黙が続く。森林の空気が二人を包み込む。
「死者の声でも、聞こえるのか・・・?」店長の声が、沈黙を破った。
「・・・んな訳ないだろ・・・。」「でも・・・、何かを感じる・・・よ・・・。」友人は途切れ途切れに言葉を出した。
ゆっくりと歩きながら、車を離れる二人。沈黙のまま、何かに引きづられるように森と平行に道を進む。
森の中から、呼んでいる声が聞こえるような気がした。成り行き任せに、お金だけを追求し、立場ゆえに得られたお金でお祭騒ぎを繰り返していた人生を・・・。
「・・・オレの存在価値って、何なんだ・・・。」
「・・・成り行き任せから、外れた分じゃないのかなぁ・・・。」何となく、そんな気がして、そのままつぶやいた。
「・・・大騒ぎの分か・・・。」何時もなら、大儲けを誇っていただろう・・・。しかし、今は、何時もの通りの答えは口に出来なかった。
「・・・あぁ・・・。成り行き任せなら、オレで無くてもいぃ・・・。誰でも、いぃ・・・。オレの分は、其処・・・だろぅ・・・。」
「・・・大騒ぎかぁ・・・。」
・・・・・・・。
「でも、何で、大騒ぎしてたんだ・・・?」
「・・・本能か・・・。本能なら、皆同じようなものだろ・・・。・・・だから、皆羨ましがっていたのか・・・?」
「多分なぁ・・・。」
「オレたち、羨ましがられるほど充実してたか・・・?」
「・・・そうでも、無いようだ・・・なぁ・・・。」実感だった。むしろ反対だった。気が付けば、底知れない虚無感が襲い掛かって来ていた。その虚無感から逃れるように、新たな大騒ぎを繰り返していた。
「・・・多大なエネルギーの無駄・・・か・・・。」
「・・・オレの存在価値は、エネルギーの無駄・・・。」
森の中が近くなったような気がした。
「・・・まて!」「・・・。」「無駄だった・・・だ。」恐怖が冷静さを後押しした。
「何か・・・、今のが、充実してるような・・・。」
「・・・何か、出来そうな気がして来ないか・・・?」
「あぁ。・・・。」実感だった。二人は、車に戻った。
「とりあえず、帰るか・・・?」
「・・・また、拉致されないよなぁ・・・。」不安が襲う。
「ちょっと走って、何か食うか・・・?」
「そうだな・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・(続く)・・・・・・・。