「パンダ猫のたまご」・・・。

   (0)プロローグ

この物語は、過剰な現実逃避という麻薬を与えない。

ましてや、大枚という覚せい剤の悪夢にも誘わない。

「自分探しの基礎」のアンチョコみたいなモノなのだ。

   (1)パンダ猫のたまご

ある秋の日、新興住宅地にある公園に一人の中年男が勝手に露店を出した。

白い布で覆われているテーブルの上には、パンダ柄に塗られた玉子の様な物が整然と並べられている。

男は、その横に低めのイスを置き、腰掛けて、ペット用ケージからパンダ柄の猫を出し、リードでイスにつないだ。

よく見れば、それぞれの玉子の様なものには、パンダ柄と共に文字らしきものが見え、塗料で塗られたように見える猫は、大人しく男の横に座っている。

幼稚園児の帰宅時間になると、子連れの母親たちが公園の中を横切って近道をする。

ある親子が男の前を通った時、子どもがパンダ柄に塗られた猫を見て声を上げた。

「わぁ~、カワイイ。・・・ねぇ、お母さん、あの猫のたまご買ってよ。・・・」

母親は、子どもの勢いに戸惑っている。

すかさず男は、子どもに声をかけた。

「お嬢ちゃん、さすが見る目があるね~。このたまご、上手く育てれば、こんな柄の猫が生まれるよ~。」

子どもは、目を輝かせて答えた。

「うん。ワタシ上手く育てる。・・・」

「いいかい?お家に帰ったら、昼は、陽当たりの良いところでクッションの上にでも置いてあげて、毎日、お祈りして、

夜は、布団の中でやさしく温めてあげるんだよ。

たまごによって、育ちの早いのと、遅いのとがあるけど、

お嬢ちゃんの心が神様に通じれば、きっと、カワイイ子猫が生まれるからね・・。」

母親が、テーブルの前を見ると、値札がぶら下がっている。

『パンダ猫のたまご 一つ 千円』

母親は、男にクレームを付けた。

「こんなモノ、本当に猫が生まれる訳がないでしょ。あなた、詐欺みたいなものよ!」

男は、少しもたじろがない。

「奥様、詐欺はないんじゃないですか~。私は、夢を売っているんです。夢を!

映画だって、デパートで売っているオモチャだって、みんな夢を売っているんじゃないんですか。」

母親は、男の勢いに少し戸惑い、言葉が直ぐに出てこない。

母親には、男の言う事が、なんとなく正論の様にも思えてしまっていた。

子どもが、はしゃぎながら言った。

「お母さん!ワタシ、夢、欲しいよぉ!・・・」

母親は、戸惑いながら、言った。

「・・・でも、千円は高いでしょ。五百円にしてよ。」

男は、すかさず答えた。

「わかりました。奥様には、かなわないなぁ。出血大サービス。特別に一つだけ五百円でお譲りします。

お嬢ちゃん、どれがいい?」

子どもは、喜びながら、たまごを比べている。

少しして、

「ワタシ、これにき~めた!」と柄がよりはっきりしている大きめのたまごを選び取った。

母親は、渋々五百円玉を男に渡した。

母と娘が男とやりとりしている間に、何組かの親子が勝手に出された露店の周りを囲んでいた。

その後、この様なやりとりが、正確に何回あったのか?は、分からない。

しかし、男は、数千円を手にすると、早々に露店をたたんでその街を出た。

  (2)たまごと夢

公園で怪しい男から、パンダ猫のたまごを買ってもらった幼女の名は、ユメミ。

ユメミは、男の言うとおりに、陽当たりの良い窓辺に置いたクッションの上にたまごを置いていた。

たまごには、模様と共に「世界平和」と記されていた。

付属の説明書も付いていたが、未だ漢字も良く読めない幼女にとっては無用の長物だった。

母親も、元々、乗り気ではなかった娘のオモチャには、無関心だ。

ユメミは、朝起きた時、出かける時、帰って来た時、夕食の前、などなど、思い付いた時に、しばしば拝んでいた。

夜は、大切そうに抱きしめながら、一緒に寝ていた。

「・・・早く、このたまご孵らないかなぁ・・・」

ユメミの表情は、和らいでいた。

・・・・・・・。

ユメミは、幼稚園で、友達に、パンダ猫のたまごの話しを、自慢げにしていた。

友達は、ユメミの話しの勢いのまま、

「いいなぁ・・・。」

「わたしも欲しいなぁ~」などと、応えていた。

其処へ、一人の男の子が入り込んで来る。

「お前ら、バッカじゃないの~。ネコが玉子から生まれる訳ないじゃん。

ネコは、哺乳類なんだってば~」

幼女たちは、一瞬で険しい顔になった。

ユメミは、言い返した。

「そんな事、誰が決めたのよ!

おじさんは、ちゃんと育てれば生まれるって言ってたモン。」

「そのおじさんが詐欺師なんだよ~。バッカ。」

「詐欺じゃないモン。夢を売ってただけだモン。」

「夢なら、生まれる訳ないじゃんか~」

「夢の中で生まれるモン・・」

・・・・・・・。

子ども同士の口げんかがしばらく続いた。

・・・・・・・。

ユメミは家に帰ると、母親に問いかけた。

「お母さん!パンダ猫のたまご、孵るよねぇ?」

母親は、とりあえず応えた。

「もちろんよー。あなたが、一生懸命お世話すれば、孵る『かも』しれないよー。」

「かも、じゃいヤダァ~」

ユメミの勢いに、母親も真面目に相手にせざるを得なくなった。

「よ~く考えてごらんなさい。

猫は、哺乳類でしょ。

哺乳類は、たまごを生まないのよ。」

「じゃあ、何で、パンダ猫のたまごって売ってたのよ~!」

「あの人は、『夢』を売ってたの。」

「夢って何よ~!ワタシ、こんな夢、要らない!!」

ユメミは、怒りながら、パンダ猫のたまごを手に取り、床に投げつけた。

パンダ猫のたまごは、虚しく、弾んで、転がって行った。

   (3)夢のたまご

ユメミの後でパンダ猫のたまごを買ってもらっていた男の子がいた。男の子の名は、ショウ。

ショウは、パンダ柄とともに「夢」としるされていたたまごを選んでいた。

ショウは、家に帰ると、兄に説明書を見せ、その内容を聞いた。

「・・・自分の夢を実現したい者は、その夢が、正しい善夢か?間違っている悪夢か?を考えよ。

善夢を抱いている者は、そのままたまごを温めよ。

悪夢を抱いている者は、たまごを割ると良い。

・・・って書いてあるけど・・・」ショウの兄は、説明書を読んで聞かせた。

「どういう意味??」ショウには、説明書の内容が、今一つ良くわからない。

「・・・良い夢なら、そのまま持ち続け、悪い夢なら、壊してしまえ!って事じゃないかなぁ・・」兄は、簡単に解説した。

「・・・ふ~ん・・。」ショウは、何となく解ったような気分になって、たまごを大切に持ちながら、

「新しいゲームも簡単に買えるように、大金持ちになりますよ~に!」と願った。

それから、一ヶ月が過ぎた。

ショウの父親がリストラに遭い、ショウ一家は、ローン中だった一戸建ての家を手放す事になった。

ショウには、身の回りに起こっている物事の実体は、良くわからなかったが、自分たちが今までより貧乏になった事には敏感だった。

「なんでぇ!このたまご、インチキじゃないか!!」ショウは、パンダ猫のたまごを投げ捨てた。

「夢」と書かれていたパンダ猫のたまごは、ショウたちが手放す家具の無くなった一戸建ての埃だらけの部屋の奥に転がって行った。

   (4)極楽浄土

「・・・どうせなら、コレにしなさい。」ショウの後に、パンダ猫のたまごを買ってもらっていた幼女の母親は、パンダ柄と共に書かれていた文字に着目して、娘に促がした。

娘の名は、ラク。

ラクは、母親の言うとおりに、「極楽浄土」と記されているたまごを手に取った。

家に戻ると、母親は、直ぐに説明書を読み始めた。

「・・・極楽浄土を得たい者は、先ず、死の実体を把握せよ。

死の実体が把握出来たなら、その上でたまごを温めよ。

死の実体が把握出来ない者は、たまごを割ってみると良い。・・・」

「・・・何よ、これ・・・。」母親は困惑した。

「ラクちゃん。せっかく買ったのだから、大切にしてね。」母親は、たまごと説明書を娘に押し付けるように渡した。

「お母さん。なんて書いてあったの??・・どんな意味?・・」ラクは、素直な疑問を母親にぶつけた。

「・・・大人になったら、解るわよ。」母親は、とりあえず難を逃れた。

母親の弟が急死した。母親の弟は、母親同様、太っていた。

原因は、心筋梗塞だった。

バブル時代の資産を活かして、輸入業を営んでいた、母親の弟の葬儀は、盛大に行われた。

複数の僧侶の読経が長きに渡って続き、

立派な戒名を頂いた弟の位牌は、大きく、堂々としていた。

「・・・せめて、極楽浄土に行けます様に・・・」母親は、弟の棺桶に、ラクから取り上げたパンダ猫のたまごを入れた。「極楽浄土」と書かれていたパンダ猫のたまごの中には、小さな細胞の様な粒が無数に入っていた。

弟の遺体と共に焼かれたたまごの中の粒は、誰の目にも止まらない焼却炉の中で、七色の炎を輝かせた。

   (5)夢・妄想・悪夢

読者の方々は、もう、お気づきだろうか?

怪しい男が売っていた「パンダ猫のたまご」を、

怪しくない大企業が大量に売りさばいている「現実離れしたゲーム」などに置き換えてもこの話しは成り立つことに。

如何にも人の良さそうな方々が前面に出ている宗教の「丸ごと一人のあの世」という「現実離れした概念」に置き換えてもこの話しが成り立つことに。

「夢」と、「妄想」をかき立て、「現実離れという悪夢」を売っている商売は、枚挙に暇が無いのである。

それでは、以下の夢の内、どれが本当の夢で、どれが悪夢なのか?お考え頂きたい。

・自分が大金持ちになる事

・貧乏撲滅

・自分が世界の支配者になる事

・世界平和

・自分という個体の永遠の命

・地球生命体の永遠の命

・・・・・・・。

皆様、本当の夢を持ち、悪夢はくれぐれも、程々のお遊び程度に。

   (6)特別な人

仏教には、千日回峰行という修行を持つ宗派がある。千日間も、お経を唱えながら、山を駆け回るのだ。

また、瀧行を持つ宗派も少なく無い。冷たい勢いの良い瀧水に打たれる事で、心身を清めるのである。

「何故、それらの人々は、特別な苦難を自らに強いるのか?」

耐えられる特別な苦難を強いられた人々は、特別感を得る。

例えば、産まれながらの苦境でも、、生後の親との死別や親の不運でも、自らが体験した事故・病気等々でも、それらがその人にとって耐えられる範囲に収まっている限り、人格崩壊等は起こらず、特別感が得られる。

特別な成功でも、特別感が得られる。

スポーツや芸術や芸能や学術等々で、並み外れた才能を示せた場合などがそれに当たる。

苦難が作り出す特別感も、並み外れた成功が作り出す特別感も、特別感である事に変わりは無い。

特別感を得た人々は、往々にして、特別扱いを望みがちになる。

苦難が元の場合は、特別扱いされる立場へ登りつめる行動を起こし易くなる。

所謂、「苦境~大成功物語」の精神構造である。

並外れた成功の場合は、特別扱いメリットを製造して自らの他者を利用した自己確認の代償欲求欲等を満たしたい人々が、率先して特別扱いを行う場合も少なく無い。

実体を伴う並外れた成功が作り出す特別感を得る事は、多くの人々にとって、困難である。

そこで、現状の人間社会では、人脈的悪知恵で、並み外れた成功が捏造されている。

特別感はとにかく、並み外れた成功がもたらすメリットだけは、人脈内で分かち合えてしまうからだ。

どんなに特別感を得た人でも、地球生命体細胞群の約60兆の塊である事に変わりは無く、

人間社会でのメリットを大きく得たところで、地球生命体細胞群の永続へ貢献出来たとは限らないのだが・・・。

特別感を得た、本当の満足感を得られない人生と、

特別感とは無縁でも、本当の満足感が得られる人生の

「どちらが、本当の成功者の人生か?」は、言うまでもないだろう。

   (7)比べっこ坊や

「価値観」と書かれたパンダ猫のたまごを買って行った母娘の兄、タケルは、妹から、そのたまごを奪い取ってながめた。

「変なたまごだなぁ・・」

「価値観??・・・まぁ、関係ない・・・か・・。」

しばらくたまごを手の平の上で回した後、タケルは、妹にたまごを返した。

・・・・・・・。

小学生の男の子二人がケンカを始めた。原因は、よく判らない。片方がもう片方の思いを貶した事がキッカケになり、思いと思いの衝突がエスカレートした大元の原因は、何れにしても、現実離れした些細な物事だった。

勝負は直ぐについた。一方の男の子は、格闘技を習っていた。

その次の日、負けた方の男の子の仲間が、ナイフを持って、格闘技を習っていた男の子を不意打ちした。

「ざまぁみろ!鉄の様なこぶしでも、本当の鉄には敵わない。

オマケに、俺は、お前の敵だとも判らないスティルスを持ちながら、不意打ちをした。

悪のエネルギーまで力に換える俺の敵などいないんだぁ~!」

不意打ちされた男の子は、病院で死亡した。

その次の日、不意打ちされた男の子の先輩が、拳銃で、不意打ちした男の子を撃った。

「悪を滅ぼす、オレこそ正義さ。この世に正義が在る限り、お前の様なヤツは許されない!後輩よ、カタキは撃ったぜ。安らかにお眠り・・・。」

拳銃で撃たれた男の子は、即死した。

その次の日、即死した男の子の親戚が、ミサイルを撃った。

電子制御でコントロールされているミサイルは、正確に、拳銃を撃った男の子の家に辿り着き爆発した。

「元々は、お前らが悪いんだろ!バカ言ってんじゃないよ。」

男の子の家は、ミサイルの爆発で吹っ飛び、男の子もその家族も、死亡した。

その次の日、死亡した家族の親戚が、核ミサイルを撃った。

「お前らが何処に居ようと、コレでオシマイだ。最後に勝つのが正義さ!」

核ミサイルは、一つの都市を廃墟にし、電子制御のミサイルを撃った男の子の親戚も死亡した。

その次の日から、最後に残った家族の親戚は、自分たちの歴史を称える教育を行った。

その数日後、地球は消滅した。

「自分の正体も解らない危ない生物を、大々的に宇宙に出す事は出来得ない。

成長不足の高等生物を持つ危ない生命体は、間引きの対象だ。」

元々の言葉は、何語かは判らないが、翻訳するとその様な旨になる言葉を発した宇宙生物が、地球と地球上の生物の全てを消滅させた。

その後、新たな地球が造られ、

「別の素を植えるか・・・」

宇宙生物は、新たな「種」を植えた。

自分の実体を忘れた比べっこゲームの勝者は、もう存在していない。

新たな「種」からは「過剰な程に、現実離れした思いを追求したがる遺伝子に育つ素」が除かれ、「現実把握、実体把握、自覚を重視する遺伝子に育つ素」が入れ込まれていた。

上記の様な夢を見た少年の名は、タケル。格闘技を習っていた。

タケルは、次の日、同級生とケンカになりそうになった時、自分を抑えた。

   (8)武器とお金

武器を用いた比べっこは、症状が直ぐにハッキリと出る。お金を持ちいた比べっこは、症状が次第に出る。

どちらも、使われている物が違うだけで、行われている事は「人類同士の比べっこ」である。

比べっこの勝者たちは、戦利品に囲まれて自慰心を高揚させ、

比べっこの敗者たちには、命さえ失った者が少なくない。武力による戦死者は言うに及ばず、経済戦争の結果が自殺や病死という戦死になった例は枚挙に暇が無い。

人類が、お金を持ちいた比べっこで時を重ねて来ている結果、

太陽に地球上の全ての生物を滅ぼさせる為、

空中の扉は、閉じ始めて脱出を拒み、

天空の扉は、開き始めて、地球上の全ての生物に自滅への階段を登らせている。

その上、お金を用いた比べっこが、手招きして招いているのは、

「武器を持ちいた生き残りの比べっこ」なのだ。

   (9)ナンバーワンとオンリーワン

中学生のサトルは考えていた。

「ナンバーワンになろうと、比べっこに走れば・・・、

人類に先は無い・・・。

人類に先が無ければ、人類である自分にも先が無い・・・。」

「どうすれば良いのだろうか?」

「ナンバーワンではなく、オンリーワンだ!

自分らしく生きるんだ!」

「でも、自分らしく・・・って、どうすればいいんだ?」

サトルは、困った。頭の中には、、先ず、自分の周りの人々が浮かんでいた。

「ボクの親父は、大工だし・・・。

ボクの母親は、美容師だ・・・。

ツヨシの親は、サッカー選手だし、ツヨシは、身体も強い。

マナブの親は、学者だったと思うし、マナブは成績も良い。

ナリキンの親は、大金持ちだし、ナリキンは、数多くの高級品に囲まれて生活している。

・・・。・・・。」

「そうだ、それが、現実だ。

無理な事を考えても仕方無い。

ボクの親は、大工と美容師だから、ボクも手先が多少は器用だ。

手先が器用な事を活かして、何かの職人にでもなれば・・・、

オンリーワンか(?)・・・。」

「そうすると・・・、

ツヨシは、スポーツ選手で、

マナブは、学者、

ナリキンは、大金持ちの資本家・・・かぁ・・・。

何だか、親の代と変わんないけど、それぞれが、オンリーワンなら、いいのかなぁ・・・。」

「それで、みんなで、仲良く暮らせば、友愛社会の出来上がり・・・かなぁ・・・。」

・・・・・・・。

サトルは、本当のオンリーワンを、理解した/悟ったのだろうか?

・・・・・・・。

「親と同じ道を繰り返すだけなら、人類は、戦争も繰り返す事になる。

誰もが、代々話を繰り返す為に生まれてきたんじゃない!」

「手先が器用なボクは、優秀な心臓外科医にもなれる筈。

身体が強いツヨシなら、力仕事は何でも出来る。

成績の良いマナブだって、頭の使い方を変えれば、お笑いだって出来る。

大金持ちのナリキンだって、自分が持っているお金を増やす事も出来れば、自分が持っているお金を本当に必要な人々に配る事も出来る。」

「何が正解で、本当のオンリーワンなんだ?」

「そもそも、自分って、人間って、何さ?」

・・・・・・・。

自分の正体が、地球生命体細胞群の一塊であり、

地球生命体細胞群の永続に対する貢献という自分本来の仕事の基本を見出す事は、

現代を生きる人間にとって、そんなに困難な事ではない。

自分本来の適性を活かしながら、地球生命体細胞群の永続に貢献する本来の仕事をこなすことが、

オンリーワンの必要十分条件に他ならない。

自分のナンバーワンの人生は其処にある。

サトルが悟るまで、後、何日?

   (10)頑張った人が報われる社会

「頑張りたい人が頑張れる社会を!頑張った人が報われる社会を!・・・」政治家たちの票集め演説が街に響いていた。

「うるさいなぁ。人の邪魔して、いったい、何、頑張ってるんだよ。」受験勉強中の高校生がつぶやいた。

有名大学を目指していたその高校生は、頑張って、努力して、数多くの、試験に出る内容を覚えていた。

「全く、こんな好きでもない物事を、頑張って、たくさん覚えるんだから・・・。」

高校生は、部屋の扉に貼ってある有名サッカー選手のポスターを見た。

「あ~ぁ。○○○みたいに、年に何億も稼げたらいいんだけどなぁ・・・。でも、そんな体力ないしなぁ・・・。

・・・勉強・・・。勉強・・・。」

高校生は、有名大学に入って、一流企業に入り、それなりのお金持ちになる。そんな普通の夢を抱いていた。その夢に向かって頑張っていた。

高校生が目指していた一流企業の一つは、事業業績が悪化した。その企業は外国資本に安く買い取られた。数多くの従業員は、リストラになり、一定以上の年齢の社員は再就職先も見つからなかった。

「一流企業でも、こんなコト、あるんだなぁ・・・。」高校生には、他人事だった。

一週間後、高校生の父親がリストラになった。

高校生は、大学への夢を諦め、お金を求めて、努力を重ねた。

「丸一日、めっちゃキツイ、バイトしても、こんなモンかぁ・・・」数千円を手に、高校生は考えた。

「何を、どう、頑張れば、大金持ちになれるんだぁ??」

テレビでは振り込め詐欺の犯人が逮捕されたニュースをやっていた。

「悪いヤツらは、逮捕が当然でしょ・・。」その後に流された字幕を見て、高校生は考えた。

「被害総額、●億円・・?・・・、振り込め詐欺をやって、捕まらなければ、ホンの僅かの年月で●億円・・。

家に金が無いからいけない一流大学に入る為に、好きでもないものごとを山ほど覚えている暇があるのなら、

振込み詐欺をやっても捕まらない方法でも考えた方が、合理的じゃないのかなぁ・・。」

「今の自分が、大金を得る為に頑張れる事は、他にありそうもないし・・・。」

「頑張りたい人が頑張れる社会、なんて、未だないんだ。

頑張った人が報われる社会は、少しありそう・・だけど・・。

いや、頑張れた人と言うべきなんだろうけど・・。

今の自分が、頑張れる事を頑張って、

人並み以上の大金をつかむという、

人並みの夢をおいかけるんだぁ!!!」

高校生は、夢に向かって頑張った。

・・・・・・・。

合法/違法を問わず、自分の下にお金を集める事を頑張りたがる人々は多い。

現状の合法とは、あくまでも、人間グループの合意に過ぎない。

違法行為でも露呈し、摘発されなければ、無かった事にされているのが今の人間社会の実状だ。

法の科学化、現行法の現実離れの是正は必需だが、その為の仕事は、国会議員は言うに及ばず、法学者でさえ、ロクな仕事をしていない。

頑張る内容が問われていない、頑張った人が報われる社会。

もしくは、現状で頑張れる人が、現状で報われる社会、

膨大な現実を壊しながら、現状が存在出来ている間だけ見る事が出来てしまっている悪夢。

悪夢を夢見ている就寝中の人々は、自覚の有無に係わらず、人類滅亡という永遠の眠りさえ、求めている。

自分の正体を忘れてしまうと、人は、自分が何をやっているのか、さえ、判らなくなる。

   (11)進化と特化

「わぁ・・!やっぱり◎◎◎は凄いなぁ!親の◎◎●も凄かったけど・・、やっぱり、サラブレッド一家は違うなぁ・・・」ある芸能人がアカデミー賞を取ったニュースを見て、少年・少女たちが騒いでいた。

少なくとも上辺では、飛び跳ねるように、明るく元気な空気を漂わせ、賞を取った芸能人の賛美話しは続いていた。

ある少年がつぶやいた。「サラブレッドはいいけど、オレ、サラブレッド一家の生まれじゃないしなぁ・・。◎◎◎みたいに、賞ももらって、大金持ちに・・とは、いきそうもないなぁ・・。

・・・なんか、他人の成功ばなしをしてたら、虚しくなった・・」

・・・・・・・。

サラブレッドの子どもは、サラブレッド。蛙の子は蛙。

ところで、「サラブレッドは、他の馬より優れた馬に進化した、進化種なのだろうか?」

否、サラブレッドとは、人間が、競走馬としてより有利な特性を持つ馬のみを、選別し、それら同士の交配を繰り返す事で、

競馬という特別な環境では並外れた優位性を持つ、

「特化した馬」として育まれて来ている。

特化した馬が、特化目的である環境以外の環境で、他の馬よりも優位性を示すのか?否か?は、また別の話しだ。

サラブレッドの場合、自然環境に置かれれば、早々に絶滅してしまう可能性も大きい。

特化した環境との適合性を高める特化と、

その種自体の進化は、別である。

それは、丁度、今時の医療体制と似ている。

それぞれの医師や看護師たちは、その治療に特化した人たちとなり、

その特化した人たちが共存・共栄している限り、

医療全体のレベルは、過去よりも進化している。

・・・・・・・。

人間の場合も、多様な環境下で暮らすように進化した事で、特化も起こっている。

◎◎人も、●●人も、○○人も、・・・同様の人々が暮らす環境での適合性が高い特化の結果に他ならない。

そして、多様な特化人が共存する事で、人類全体は進化しているのだ。

「神は、人類への罰として、言葉を分けた」のではない。

「人類の進化が、多様な環境の下での人類の生活を生み、多様な環境の要請でそれぞれの環境との適合性が高い特化した人々が生まれた」のだ。

地球生命体の進化の過程で滅亡した種も在る。

恐竜などの場合は、環境の急変に対応出来ず滅亡したと言われている。

新たな環境に置かれた地球生命体細胞群は、旧来の環境への適合性は極めて高いが、環境占有率も極めて高かった、新たな環境への適合性の悪い種を、地球生命体細胞群の進化の為に滅亡させたのだ。

地球生命体細胞群が、進化を怠る事は、地球生命体細胞群の滅亡に直結している。

生命力が弱い集団が滅亡する事もある。

地球生命体細胞群の全体像から、生命力の弱い種等の滅亡を差し引いても、全体の進化への影響は少なく、新たな空場の誕生が、新たな進化を促す事になる。

種の滅亡を知った他の種に起きる変化も重要だ。

地球生命体細胞群は、自らを鍛え、鍛えられ、免疫力を身に付けながらより高度な存続を可能にし続けて来ている。

種の滅亡は、地球生命体細胞群の存続ゆえの正当な理由をもっている場合にのみ、正当である。

悪戯で身勝手な多種共存の否定は、退化に通じ、退化した生物の先は短い。

   (12)忘れ得ぬ記憶

思い出してごらん。

自分が、たった一つの細胞だった時・・・。

そして、その後、自分が何をして来たのか・・・?

たくさんの細胞を生み、

たくさんの細胞が死に、

たくさんの外敵やガン化した細胞を殺し、

・・・・・・・。

誰の底にも在る、無意識の記憶・・・。

それは、忘れたつもりでも、忘れ得ない記憶・・・。

誰もが、その記憶ゆえに存続している・・・。

・・・・・・・。

思い出してごらん。

自分が、一つの細胞になる前を・・・。

・・・・・・・。

思い出してごらん。

人間になる前を・・・。

・・・・・・・。

思い出してごらん。

この地球で生まれた時を・・・。

・・・・・・・。

地球生命体の自分は、その存続の為に細胞を増やし、

その存続の為に多様性を極め、

その存続の為に進化を繰り返して、

地球上が自分でいっぱいになった今、

宇宙に広がる事を夢見て生きている・・・。

地球生命体の永遠の命を夢見て生きている・・・。

誰もが実際に辿り着ける・・・本当の自分の永遠の命・・・。

細胞ごとに、毎日この瞬間にも体験している死と誕生を、

実感すれば、するほどに、

死の恐怖も、まるごと一人の霊も、あの世も消え去って行く・・・。

この世の大切さが身に沁み、

この世の不当な現実離れに怒りを感じ、

是正欲動が沸き起こると共に、

永遠に続く生命大木が、自分の底から、やさしく微笑みかけて来る・・・。

・・・・・・・。

命の連続をたどれば、今を生きている誰もが、何十億年もの年齢・・・。

今を生きている誰もが、同じ年齢・・・。

今を生きている誰もが、同じ根っ子を持つ、

一つの大きな生命大木の最先端の枝の一本・・・。

周りの枝が邪魔に思えて、

切り落としたがっている、

自分で自分を切りたがる狂った自分、

ガン細胞の様・・・。

ガン細胞は、ガン細胞個体の永遠の命を欲しながら、

多くの場合、切り捨てられ、

時に、宿木本体を殺す事で、

短命を全うする・・・。

ガン化したものが生命大木で蔓延れば、

生命大木は死ぬ・・・。

切り落とされる必然を持つもの、ガン化したもの・・・。

・・・・・・・。

忘れ得ぬ記憶、生命大木がある限り・・・。

   (13)支配権

あなたに、この「たまご」を差し上げよう。

殻には、「世界平和」が刻まれている。

中には、「世界の支配権」が入っている。

「たまご」を割って、「世界の支配権」を得るのも自由、

「たまご」を割らずに、「世界平和」を温めるのも自由だ。

「たまご」は、世界中で配られた。

・・・・・・・。

自分を健康的にコントロールし続けている人たちが、「たまご」を受け取った。

「世界平和」を温めていると、パンダ猫が生まれ、パンダ猫は、成猫となった。

成猫を得た者たちが、他の成猫を得た者たちと、交流し、

カップルが生まれ、パンダ猫は、また「たまご」を産んだ。

平和が続いた。

・・・・・・・。

セルフコントロールが疎かな者たちが、「たまご」を割って、「世界の支配権のもと」を食べた。

「他人や物事を支配する力」を得た者たちは、

他の「たまご」を持つ人々の所に侵入し、

他の人々の「たまご」を奪って、食べ続け、

益々太って行った。

しかし、奪いつくせる全ての「たまご」を食い尽くすと、

急激に痩せ細り、

支配者たちは「支配する他人や物事」を失った失意の中に陥り、支配者たちも含む全ての生き物が死んでしまった。

・・・・・・・。

最初の章でユメミが買った「パンダ猫のたまご」の説明書きには、

『1.このたまごを売っている者の言うとおりに、してはならない。何故なら、このたまごが売られている時、このたまごは盗まれているからだ。

2.殻に描かれている事を正確に読み解けば、世界平和の鍵が得られる。殻の模様が良く解らない者の為にその内容を記せば、

(1)世界平和は、時と共に、一人一人がそれぞれを健康的にコントロールし、成長させ続ける事によってもたらされる状態である。

(2)多様性を否定してはならない。多様性は進化の結果である。進化し続ける事で存続も可能になる。多種共存せよ。

(3)自分の健康的なコントロールを怠り、他人を支配しようとする者たちや、他人に自分を支配させる事で支配者からの報酬を得ようとする者たちに力を持たせ続ければ、このたまごは、割られ、人類は、戦争の歴史という自虐の歴史を繰り返し、滅亡に至る事になる。

(4)自分たちを健康的にコントロールし、成長しながら、世界平和の鍵のこのたまごを温め、その時に至れば、このたまごは、孵り、パンダ猫の子猫が生まれる。パンダ猫の子猫を育てた者たち同士が、大人になったパンダ猫同士を合わせれば、パンダ猫は、またたまごを産む。そして、そのたまごには、その時に必要な鍵が記されている。』と記されていた。

ユメミが投げ捨てたパンダ猫のたまごは、ユメミの部屋のベットの裏で埃にまみれていた。

パンダ猫の説明書を読む事が出来ないユメミは、説明書をゴミ箱に捨てていた。

・・・・・・・。

人は、自分を健康的にコントロールしないと、過剰な程に、他人や物事を支配したがったり、他人や物事に頼りたがる欲動を得る。

過剰な程に、他人や物事を支配したり、他人や物事に頼っている状態では、人は、成長出来ない。

代償欲求の追及行為に明け暮れた成長出来ない人々が残した物事は・・・。

・・・・・・・。

今までの人類は、

解らない物事があまりにも多く、

多くの人々が、だれもが既にもっている「たまご」を温めるゆとりさえ失っていた。

多くの人々が、頼る者・物・事を求め、

「自分に他人を頼らせる為に・・・」と、

自分の「たまご」を、割って、食べて、他人の「たまご」まで、比べっこで奪い取り、他人の分のたまごを食べ、自分を強化して来た人々が主流だった。

今後、人類は、「どちらに向かうことを選択している」のだろうか・・・。

・・・・・・・。

「どちらにむかうべきか?」

自分の実体を認識し、永遠の命を得る為なら、既に結論は出ているのだが・・・。

支配すべきは自分であり、

他の者・物・事では、あり得ない。

世界平和という現実を他の多様な人々と共有する道を踏み外せば、人類は滅亡する。

自分の権利を他人に使わせる事も、

越権行為で他人を支配する事も、

自分を健康的にコントロールしようとしていない不健康状態だから、出来得てしまっている悪行に他ならない。

   (14)神様の通信簿

地球生命体細胞群の一塊という自分の実体を把握出来た人なら、

地球生命体細胞群の永続への貢献という判断基準から、

自らの人生を絶対評価する事が可能になる。

「神様の通信簿」は、各自が自分の実体・実態に基づいて、全ての現実から逃げずに自覚した結果と同じなのだ。

天国も地獄も無い。

あるのは、地球生命体細胞群の未来であり、

自然の摂理から落第点を申し付かった人類の数や力が余りあれば、

人類は滅亡する。

自然の摂理から優秀点を申し付かった人類の数や力が十分にあれば、

人類も含む地球生命体細胞群の永遠の命も可能になる。

自分の人生の実体が、自然の摂理の判断の下で、落第点か?及第点か?優秀点か?の自覚ぐらいは、現代人の誰もが持つべきであり、

自覚を持つ事が、及第点以上の状態に自分の人生を導く基礎にもなる。

そして、大幅な是正が、大衆合意次第で可能になる。

   (~)エピローグ

パンダは中国共産党の道具(・・・独占動物)では無い。地球環境が生み出した生物の一種だ。

もちろん、パンダ猫は、空想上の生物である。

お気づきの方々も多いと思うが、全ての章を原内容はそのままに、(1)の様な人間ストーリー的に書き換えれば、

所謂、小説的にもなり、テレビや映画等の脚本等にも成り得る。

「おバカの死の壁」の例もある様に、人間、基本的な部分が???だと、例え、お偉い先生でも、やっている事、書いている本等まで、結構、コッケイだったりする。

基本的な部分が???な人々を減らすなら、くだらないばかりか多大な実害をもたらす源泉にもなってしまっている血統家族主義等を刷り込む内容のドラマ・小説等などの大量配信は止め、

「最低でも、この程度の内容の物の大量配信を、行うべきでしょ・・・。」という例の原案みたいなモノなのだ。

作家等で、余りある報酬まで、得てしまっている連中は、もっと、もっと、「正当な方向へ向かって、頑張るべき」である。

|

偽りの雲・・・。

昭和三十年代前半、ある親子が、知人の家を訪ねた帰り、田舎駅のホームで夫婦喧嘩を始めた。

「つかれるな。」父親は嫌気を蔓延させた。

「全く、何でこんなところにまでわざわざ出向いて来なければいけないのよ!」母親も同調した。

「そんな事言ったって、洋の保育園の友達の家じゃないか!」

「洋の友達と言うより、あなたの知り合いでしょ!」

・・・喧嘩はエスカレートしていった。

傍らで夫婦喧嘩を見ていた地元の女性が割り込んだ。

「まあまあ・・・。ここは、公共の場ですから・・・。そう興奮なさらないで・・・。」

「うるさい!」

「そうよ!これは、私たちの家庭の問題よ!」

日曜日の午後、田舎駅で電車を待っている乗客は少ない。

今、田舎駅のホームの上にいるのは、洋一家と、夫婦喧嘩に割って入った地元の女性Sの叔母と、隣町の子供連れの親子と、Sの為に人影を作っていた老夫婦と中年男性であるSのたった10人である。

島型のホームを持つ駅に、電車が進入して来る。

洋と洋の母親民子と、Sの叔母と、老夫婦と、離れたところで電車を待っていた隣町の子連れの親子の目は、進入して来る電車に注目している。

老夫婦の作っていた人影から、女性の後ろに密かに近づき、密かにチャンスを伺っていたSは、靴紐を直すそぶりを見せ、かがみながら叔母の足をすくい、叔母をホームから転落させた。

運転手から見ると、親子が死角を作っていた形になり、Sは見えない。

電車が来る方向と反対を向いていたのは、父親だけである。

当然、父親修の目には、Sの行動が良く見えていたが、何事も見ていないそぶりだった。

「キャッ!」女性は、短い悲鳴を上げながら、顔から線路上に向かって落ち始めた。

「あっ!危ない!」洋は、幼い声を上げながら、女性に向かって右手を差し出した。

電車の警笛が鳴り響く。

Sは、運転手や他の乗客たちの目が、転落した女性に注目する頃を見計らい、何事も無かったかのように、歩き始めた。

転落した女性は、直ぐに動けない。

急ブレーキ・・・。

しかし、女性の身体は、無残にも、二つに轢き裂かれた。

他の数少ない乗客のどよめき・・・。

全ての人々が、女性を轢いてしまった電車と、轢かれてしまった女性の方へ視線を集中させている間に、

Sは、駅の便所に身を隠していた。

・・・・・・・。

駅員は、異常に気付き、ホームに急ぐ。

しばらく後、警察官がやって来た。

事情聴取が始まる。

運転手の証言。

「小さな子どもが後ろから押していた様に見えた・・・。」

困惑する夫婦・・・。

しかし、程なく、父親が母親にささやいた。

「洋は未だ4歳だ。刑事責任は問われない。」

「でも、本当に洋のせいかどうか・・・。」

「洋!押したんだろ!」

父親の脅しに近い強い言葉に、幼児は黙り込む。

「どうなんだ!」

「・・・押してなんかいないよ・・・。」

しかし、運転手の目撃証言もある。

警察官が詰め寄る。

「坊や、本当の事を言ってごらん。」

「・・・押してないよ・・・。」

「でも、本当は押したんだね。」

仕事を早く終えたい願望が、警察官の誘導を促していた。

黙り込む幼児。

警察官は傍に居た老夫婦に聞いた。

「この子が押していませんでしたか?」

「ええ・・・。」

老夫婦は言葉を濁しながらも肯定した。

隣町の親子連れにも聞いた。

「この子が押していませんでしたか?」

「わたしたちは、離れたところに居て、電車の方を見ていたので、わかりません・・・。」

老夫婦は、Sにお金で雇われていたSの共犯だった。

Sが身を隠す人影を作る役割と、幼児が突き落とした旨証言する証人を依頼されていたのだ。

Sは、老夫婦に各々一万円ずつ渡し、依頼した。

戦後ようやく経済的に安定した社会になりつつあった当時の日本・・・。

しかし、地方の経済は、まだまだ貧しかった。

新たな職を得る事が難しい老夫婦にとって、夫婦合わせて二万円というお金は、十分に心を動かした。

普通に検証するなら、幼児が片手で押した程度では、大人がホームから転落する事などあり得ない。

しかし、父親の欲望と、警察官の願望は大きかった。

程なく、幼児の悪戯、刑事責任無し、事故扱いという結論が出され、事件の幕は引かれることとなった。

(大人には、本当の事を言っても無駄なんだ・・・。

何よりショックだったのは、見ず知らずの老夫婦までもが、洋のせいにした事だった。)

洋は、心に鎧を被った。

人々が事故処理に熱中している間に、Sは、誰も居なくなっていた改札口を抜け、駅から2分ほど離れた場所に留め置いておいたバイクに乗り、興奮気味に、帰宅した。

・・・・・・・。

洋の家族が奇妙な小旅行を繰り返すようになったのは、洋がミッション系の保育園に入園した直後からだった。

保育園の父母顔合わせで、洋の父親は、戦争中まで住んでいた所で友人だった男の名字を見つけた。

何の気無しに、

「まさか、S○○さんのご親戚ではありませんよね。」

「えっ。」Sちゃんの父母はちょっと驚いて、

「そうですけれども、お宅様は・・・。」

「あちらに居た時の○○の友人です。今、○○はどうしてますか?」

「○○は、今、関東平野の別の県に住んでいます。」

「会いに行きたいなぁ。」

「連絡先をお教えしましょうか?」

「是非とも。」

その日家に戻ると洋の父親は、S○○に電話した。

休みの日に暇を持て余していた父親は、直ぐに、Sの家を訪ねる話しに乗った。

次の日曜日だった。

朝早くから、家を出た洋の家族は、

乗り継ぎの悪い電車を乗り継ぎ、関東平野にある地方ターミナル駅I本駅に付いた。

Sの話しでは、其処から、タクシーで直ぐだと言う。

「え~と、キリシタン通りを行ってもらって、松路島団地の入り口で降りれば・・・、いいんだな。」

洋は、父親の話しを聞き取っていた。

タクシーに一家が乗り込むと、洋が言った。

「キリシタン通りに行ってください。」

幼児の言葉に、とまどう運転手・・・。

「ええ。キリシタン通りにお願いします。」

母親がフォローした。

「坊ちゃん、良く言えたね。」運転手は微笑みながら、車をスタートさせた。

舗装されていない田舎道を少し行くと、キリシタン通りに入る。

「この先、どちらへ?」

「松路島団地の入り口へお願いします。」

また洋が言った。

「それでよろしゅうございますか?」

運転手は軽く確認を取った。

「ええ。」母親が応じた。

程なく、松路島団地の入り口に着いた。

外を見ると、Sが待っている。

「遠いところおつかれさん。」

「久しぶりだなぁ。」

・・・。

父親とSは、男同士、親交を深め合う会話を続けた。

「ねぇ。どうして海がないのに、島なの?」

洋は幼児が当然疑問に思う事を訪ねた。

Sの顔が曇った。

「そういう事は、聞かないの。」

母親は、理由も説明せず、洋を制した。

・・・・・・・。

一回目の訪問時、Sはまだ、団地住まいだった。

団地の部屋で、二時間ほど茶飲み話をした後、

洋の一家は、帰路に付いた。

・・・・・・・。

次回の訪問は、二ヶ月後だった。

それは、Sからの電話だった。

「新しい家に移ったんだ。見に来ないか?」

「もちろん。」父親は、直ぐに快諾し、翌週の日曜日に小旅行が始まった。

同じ、地方のターミナル駅から、タクシーで、しかし、今度は、少し遠かった。

「県道を行ってもらって、馬塚で右折・・・、そして、お寺と農協の間の道を少し行った後に左折・・・、公園を過ぎて、小学校のバス停の前で・・・か・・・。」

前回同様、洋は、父親の話しを運転手に伝えた。

タクシーは、無事、小学校前のバス停に着いた。

やはりSが待っていた。

・・・・・・・。

帰宅時、父親は、Sに帰り方を聞いた。

「本当は、I本駅より、新I本駅の方が少し近い。

もっと言えば、小さな駅だが、G丘駅が一番近い。しかし、G丘駅へ向かう道の橋が架け替え中だ。

私鉄で帰るのなら、I本駅と同じ位の距離で、G丘駅の先の酒野町に行ける。

バスは、I本駅と新I本駅行きがあるが、どちらも、まだ、当分来ない。」

「時間があるから、タクシーを頼む。」

洋の一家は、酒野町に向かった。

「意外と高いなぁ。」

酒野町駅で料金を払った父親は思わずこぼした。

・・・・・・・。

数ヶ月が経つと、またSから電話が入った。

どうしても話したい事があるから来てくれとの事だった。

Sの家に洋一家が居た時、母親が中座した時を見計らって、Sは父親に話しを持ちかけた。

「叔母が邪魔なんだがなぁ・・・。」

Sにとって、同じ組織に属していながら、位も上で、考え方が違っていた叔母は、目の上のタンコブだった。

叔母は、「戦争も終わったのだし、皆、仲良く・・・、もう、恨みっこ無しだよ・・・」と、

国家乗っ取り工作や、国民弱体化工作には否定的だった。

しかし、Sの思いは違っていた。

上辺では、父親との友人関係を装っていたが、内心では、何事でも、自分の方が常に上で無ければ気が済まない。

幸いにも、体力勝負では、Sの圧勝だったが、学力では、父親に劣り、Sが持っていた人脈で父親より優位になりそうなものは工作組織くらいだった。

Sは、本国組織の意向に、賛同し、叔母の殺害を了承した。

本国の組織からの資金で、Sは新築建売の一戸建てを手に入れていたのだった。

もはやSに後戻りは許されない。

洋一家を利用する殺人法は、Sの思いを充足させると共に、本国との約束も果たす好都合の道だった。

「邪魔なら殺してしまえばいいじゃないか・・・。」

Sの表の顔しか知らず、戦争体験もある父親は、冗談のつもりで持ちかけた。

「・・・俺も、色々、手口を考えているんだが・・・。

それには、お前の協力が要る。

否、お前たちの・・・と言うべきかなぁ・・・。」

「どんな手口だ?」

父親は興味本位で聞いた。

「例えば、お前たちが家に帰る時、電車に乗るだろ・・・。

駅のホームに叔母を呼び出しておいて、

例えば、お前たち夫婦が喧嘩をする。

世話好きな叔母は、きっと割って入るだろうから、

その後で、ホームから突き落とす。

周囲の人々は、お前たちのせいだと思うだろう。」

「冗談じゃない。それじゃ俺たちは犯罪者になってしまうじゃないか。」

「そこで・・・、だ。犯罪者にならない方法がある。」

「・・・。」

「そうだ、お前の子どもを利用するのさ。」

「子どもはダメだ!」

「何、未だ幼いから、何も解りはしないさ。

ただ叔母の傍に子どもが居れば良い。

幼児のせいなら、刑事罰には問われない。

お礼はたんまり出すぜ・・・。」

学歴の割りに低収入だった父親は、少し考えて、

「いくらだ?」

「コレだけ・・・」Sは指を示した。

「5万か・・・?」

当時の父親の月収は、万に満たない。

「そうだ。」

「しかし、駅のホームでは、他の乗客もいるだろう?」

「I本駅や新I本駅なら、その通りだが、新I本駅のとなりのG丘駅なら、日曜日の乗客などほとんどいない。

そして、叔母の家の最寄り駅は、そのG丘駅だ。

時間を選べば、駅員もたった一人になる。」

「万一乗客が多く、バレそうな時は、中止。乗客が少なく可能・・・となれば、実行だ。」

「何時やるんだ?」

「また日を改めて、家族で来てもらいたい。その時までに、準備する。」

「先に手付けをくれ。」

「今はこれだけしかない。」そう言うと、Sは、三千円を父親に渡した。

「次回の交通費にでもしてくれ。残りは、次に会った時半分、事が上手く行ったらもう一度来て貰って半分・・・でどうだ・・・。」

「・・・わかった。それでいいだろう。」

傍らに居た洋は、大人の話しを何となく聞いていた。

Sは不安そうに聞いた。

「その子に・・・、今の話の内容は、大丈夫か・・・?」

「大丈夫だ。まだ三歳だ。何もわからない。」

Sは、それでも不安だった。

年齢の割りに長旅で疲れ、ぼんやりと大人たちの話しを聞いていた洋には、話しの内容は良く解らなかったが、雰囲気から何かを感じ取っていた。

一家は、バス停に向かい帰路についた。

交通費を貰ったのにバスを利用したのは、父親の後ろめたさが成せる業だった。

硬い乗り心地の田舎のバスは、舗装されていない道を新I本駅に向かって走って行った。

・・・・・・・。

洋一家が来る前の日、Sは、叔母に電話した。

「叔母さん、お話ししたい情報があります。酒野町まで、一緒に行って頂けませんか?そこで、ある人と一緒にお話しします。」

「どうすれば良いんんだい?」

「明日の午後四時前に、G丘駅のホームで待っていて貰えませんか?私は、ちょっと仕事を片付けてから、電車に乗って、G丘駅に向かいます。」

「四時前の電車で来るんだね。わかったよ。」

叔母は、簡単に返事した。

・・・・・・・。

Sからの電話による打ち合わせ通りに、次の訪問が行われた。

洋は誕生日を迎え四歳になっていた。

「何で、また、Sさんの家に来たの?すごく、遠いのに・・・。」

「お前のお友達の親戚だからに決まっているだろ。

いつも、Sちゃんには遊んで貰っているじゃないか。」

父親はそう言うが、洋は、Sちゃんと遊んだ事などほとんど無かった。

保育園にいる間は、仲良く話すのだが、それ以上でも、それ以下でも無かった。

「Sおじさん。この辺に何があるの・・・?」

Sは、幼児のたわいも無い質問の答に窮した。

工業団地に隣接させて新興住宅地として開発されたばかりのその町には、子どもの喜びそうな物など何も無かった。

しばし考えて、Sは言った。

「そうだね・・・。市民センターに行くと大きな体育館があるよ。」

「体育館じゃ、つまんないや・・・。後楽園とか無いの・・・?」

「洋、後楽園じゃなくて、遊園地でしょ・・・。」母親が、バツが悪そうにフォローした。

Sの顔は曇っていた。

(俺は、また、未だに、こんな幼児に馬鹿にされるようなところにいるのか・・・。

団地の時は、「島なのに、海は?」今度は、「何もないの?」だと!)

少し不機嫌になった本当の理由は、これから行おうとしている犯罪に対するプレッシャーゆえだった。

しかし、自らの深層心理に対する自覚薄きSは、全ての原因を、目先の物事に勝手に求める。

たわいも無いお茶のみ話しが終わると、帰宅の時間になった。

何しろ、片道3時間もかかるのだ。

早々に帰らなくては、幼児にとって好ましくない時間になってしまう。

「それじゃ、御いとまするよ。」

「色々お世話になりました。」

「タクシーの来るバス停まで、お見送りするよ。」

「いや、ここで結構。」

橋の修理も終わっていた。

一家は、タクシーを利用し、Sの指示通りに、G丘駅経由で帰路に着いた。

・・・・・・・。

親子がSの家を出た時、空には光る雲が出ていた。

下を向きながら歩みを速める親子をよそに、

「きっと上手く行くぜ・・・」

Sは、雲を見上げながら、自分に言い聞かせていた。

普段と違う自然現象を見た時、人は、何かを期待する。

しかし、大自然を見て勝手に期待する内容は、人それぞれに違う。

Sの期待は、明らかな、邪まな期待だった。

Sは、バイクに乗り、車の通れない近道をG丘駅に急いだ。

タクシーに乗った一家が駅に到着する5分前、Sは、駅から、歩けば2分ほどかかる離れたところにバイクを止め、駅に急いだ。

当たり前のように酒野町までの切符を買い、早々に、駅の便所に身を隠し、老夫婦を待った。

老夫婦は、Sから言われていた通り、酒野町駅までの切符を買い、便所のSに合図をして合流し、ホームに上がった。

屋根さえ無い田舎駅のホームには、Sが身を隠すのに都合の良い場所も無い。

おまけに通常の日曜日なら、乗降客もほとんどいない。

Sの叔母は、最寄り駅であるG丘駅の状態を良く知っていたが故に、油断をしていた。

Sは、叔母の心理の裏を突いたのだった。

Sは、老夫婦を盾にし、駅員からも洋一家からも姿が見えない位置をキープしながら、ホームの中央に陣取った。

改札からより遠い位置には、その地方の親子連れが既に陣取っていた。

洋一家が乗ったタクシーが付いたのは、その後直後だった。

小さな地方駅では、国鉄までの通し券を売っていなかった。

一家は、仕方なく、その私鉄で行ける久樫までの切符を買いホームへ向かった。

Sとの打ち合わせ通り、父親は、老夫婦の手前に洋と母親を誘導した。

電車の到着までには、未だ時間がある。

親子は、たわいも無い話しをしていた。

15分後、Sの叔母が酒野町までの切符を買い、ホームへ上がった。

世話好きな叔母は、幼児を見つけると洋一家に近づいて行った。

近づいて来る中年女性を確認しながら、父親は、嫌気を蔓延させ始めた。

・・・・・・・。

本国の工作組織とSにとって邪魔だった叔母が亡き後、Sは叔母の利権を相続した。

・・・・・・・。

洋にとっても大きなショックとなった事件の後、一家の不可思議な連続訪問もパッタリと途絶えた。

しかし、事件の一週間後、父親は、久樫駅で、Sと合い残りの報酬を受け取っていた。

「これで、しばらくは会わない方が良いな。」

「そうだな。」

「変なきっかけになっても困るから、保育園も変わってもらいたい。」

「・・・う~ん・・・。・・・わかった。妻に話してみよう・・・。」

年度替わり時に合わせて、母親は、洋に大学の付属幼稚園を受験させ、洋一家は受験に合格した。

幼稚園で、平穏な二年が過ぎた。

洋の小学校進学の時期がやって来た。

教育熱心な母親は、洋に国立の小学校を受験させ、一家は抽選にも当たり、国立小学校への入学を手にした。

組織の人間からその話しを聞いたSの心には、不安と不満が充満した。

「国立校に入る程、優秀なガキなら、将来、事件時の事を思い出して、何を言い始めるかわからない。

今の内に潰しておかなくては・・・。」

Sは、久しぶりに父親と連絡を取り、高圧的に要求を突き付けた。

「坊やの将来にキズを付けたくなければ、これから言う通りにするんだ。」

「何を言う。犯罪行為がバレたら困るのは、あんただろ!」父親は反論したが、Sは反論を無視して話しを続けた。

「簡単な事さ。坊やに肉を食させ続ける事だけだ。」

洋一家が暮らしている町には、Sの組織が押さえている肉屋があった。

「どういう事だ?」父親には、Sの意図が解らない。

「坊やに肉を食べ続けてもらえば、知り合いの肉屋に固定客が付く事になる。別に毒を食わそうという訳では無い。強制的に、売り上げに協力して貰いたいダケだ。」

「たいした額にはならないだろう。」

「ブタや鳥ではダメだ。牛を買うんだ。」

当時の日本では、牛肉はまだまだ高い代物だった。

父親には、Sが脅す訳が解らなかったが、牛肉を食べさせる事ぐらいは出来ない話しでは無かった。

「うるさいヤツだな。わかった。わかった。」父親は渋々了承した。

硬い牛肉は、虫歯を作り易く、

牛肉とお茶の組み合わせは、血流を阻害し易いがゆえに脳力を阻害し易い。

・・・・・・・。

Sの本当の思惑を知らない洋の両親は話している。

「洋の成長の為には、牛肉を食べさせなくては!」父親は、母親に何度もうるさく要求した。

「どうしてよ。牛肉、高いじゃないの。」

「とにかく洋の為だ。食べさせればいいんだ!」

父親からのうるさい要求と、肉料理の簡単さが、母親を動かし、洋の食事には、しばしば、安く硬い牛の焼き肉が出るようになった。

半年も過ぎると、洋の歯は虫歯だらけになっていた。

塩で歯を磨いていた人々も少なく無かった当時、歯医者の一家でも無い洋一家の人々には、十分な歯のケアが出来る訳も無い。

洋は近所の歯医者に行かされた。

洋は、虫歯でも無い歯を削られ、訳のわからない金属の詰め物を次々とつめ込まれて行った。

歯医者は、Sの組織の配下にあり、Sの命令で、長期的には人体に有害となるように配合した金属を詰めたのだった。

摘発されない殺人法の実験の始まりだった。

継続的に弱い毒を摂取させ、死に至らしめれば、まず、摘発されない。

日本の法律では、弱毒物や少量の有害物などを継続摂取させた時に、取り締まる適当な法律が無いのだ。

意図的にや、悪意は、他の物事でも、急変でも無い多くの場合、立証が困難である。

また、その様な手段で人が死亡してしまっても、満足な検死解剖や調査が行われるケースは稀なのだ。

・・・・・・・。

洋は、だんだんと頭の調子も悪くなり、身体も虚弱体質化したが、幸いにも生きて小学校三年生を迎えた。

焦りと、いらだちがSの中に充満していた。

Sは、父親に電話した。

簡単な世間話しの後、要求を突きつける。

「今度の週末にでも、坊やを近くの○○という焼き肉店に連れて行ってもらいたい。

ご馳走して上げたいモノを用意しておく・・・。」

「食べても大丈夫なモノなんだろうな。」

「もちろんだ。大物になる子は、皆食べる。

・・・そして、おまけも付いている。万一の事があれば、お詫びをタップリと出す。」

「・・・・・。」父親は、言葉に詰まった。

当時の父親は、独立して商売を始めたが、上手く行っていなかった。

組織から、その情報を得ていたSは、強気だった。

「(殺す・・・とは、言っていない・・・。)」父親は、お金を思い都合の良い解釈をした。

・・・・・・・。

一家は、土曜日の夜、近所の焼き肉店に行った。

親子とも、当時にしては、豪華なご馳走をタップリと食べて、帰宅した。

・・・・・・・。

夜半だった。洋がうなり始めた。

高熱と脱水状態に陥り、それは、朝になっても一向に改善しなかった。

母親は直ぐに医者を呼ぶ事を強く主張したが、父親は、「食べ過ぎだろ。」と応じない。

昼近くになっても、症状は酷くなる一方だったので、母親が医者を呼んだ。

家にやって来た医師は、高熱と脱水症状を診断すると、当時として、考えられる手当てを施して帰って行った。

「昨日、焼き肉屋で、変なモノをたべさせられのでは、ないの・・・。」母親は心配そうにつぶやいた。

「沢山の肉を食べるのに慣れていなかっただけだろ。」父親は相手にしない。

翌日も、翌々日も症状は好転しない。

さすがに、父親の言い分は通らなくなった。

直ぐに、大学病院への入院が決まった。

洋は一週間の入院の末、無事帰宅出来た。

組織から、その情報を得たSは、不満そうにつぶやいた。

「歯医者だけでは無く、医者も押さえておかないとダメだな・・・。」

・・・・・・・。

しかし、犯罪者の心理など休まる時がある訳も無い。

「全てを覚えているかも知れない子どもも始末しなければ・・・」との思いは、Sの頭には充満し続けていた。

幼児にバカにされた思いも何度も繰り返し思い出していた。

Sの実験は、時と共にエスカレートして行く。

組織を使って実験を行う事は容易かった。

「あの子は、殺人者だ。こらしめてやらなければ。」

「あの子は、人を殺している。そんな人間は、順調な人生を歩んではいけない。」

・・・宗教団体の仮面を被った工作組織の構成員は、幹部からの命令に忠実である。

・・・・・・・。

幾度と無く、食べ物の中に、摘発されない毒・・・。

歯の詰め物や、肉屋の肉、出前持ちを使って出前の品等々、少量の有害物質や毒物を継続的に少しずつ・・・。

あらぬ噂を子どもの周囲で流し、精神的に追い詰める・・・。

電気を使って、遠隔殺人が出来ないか・・・?

・・・。・・・。

そして、全ての研究や実験データは、

Sが密かに属している母国の工作組織でも役立った。

Sは、工作組織でも出世した。

・・・・・・・。

時は過ぎ、東西冷戦も終わり、

世界的に平和ムードが蔓延する中、

Sの摘発されない殺人実験は、未だに続いている。

・・・・・・・。

普段と違う雲を見上げて、吉兆と偽る自分を健康的にコントロールしない支配者になりたい愚か者。

愚か者の行く末に、

断末魔を迎える前に待つべき物事は、

偽りの雲を破る光の嵐にさらされたお白洲と相場は決まっている。

|

明日の選択「エピローグ」(最悪編)・・・。

湖畔でざわめく光の粒は、愚か者たちへのレクイエム・・・。

1728文字のアナグラムが、定めの言葉をささやく時、

全ての延停信号は否定され、

地球を飲み込む穴を開く小さな機械が働き始めた。

誰も知らない人の家で、ひっそりと開いた小さな口は、

無限の力を発揮し始め、

地球の全てを飲み込み始めた。

「何だ???」「地震か???」「この風は・・・・・・・・!!!」・・・。・・・。

人々の迷いと驚きの言葉は、滅亡を彩るアクセサリー・・・。

地を失う事態に気付く前に、空気は人の意識を保つには不十分となり、

意外な程短い時間で、消滅の儀式は完成した。

身から出た錆が、宇宙空間に広がらないようにする為の安全弁・・・。

地球消滅を自ら選択したのは人類である。

エピローグ(最悪編)

ー 完 ー

|

某悪質パチンコ店にて・・・。

「352番台、お坊ちゃまご入店です・・・」係員からの無線連絡が、司令室に入る。

「・・・先ず、小当たりをプレゼント・・・と・・・。」遠隔で小当たりをプレゼントする幹部要員。

352番台に陣取った青年は、早めの当たりに喜び、小当たりにガッカリする複雑な表情を浮かべゲームを続けている。

「・・・これで・・・ボッタクリモード突入済み・・・と・・・。」幹部要員は、馴染みの客が暑くなり易い性格を形成するように、ゲームで仕込んでいた。

もちろん、個人管理や遠隔操作は違法である。しかし、地元警察関係パチンコ店管理者は懐柔済みだった。

お坊ちゃまは、小当たりの後、なかなか来ない当たりの為に、大枚をつぎ込んだ。

「・・・やっと、来たか・・・。」ようやく大当たりを引いたものの、もはやそのまま交換すれば、赤字確定である。当然のように、次の大当たりを期待してゲームを続けるお坊ちゃま・・・。

「予定通り・・・だな・・・。」念の為、リプレイ回数をチェックする幹部要員。

「・・・おっと、次まであまり回数が無いじゃないか・・・。・・・では、ストック分け前プレゼント・・・と行くか・・・。」

合図の無線を送る幹部要員。

お坊ちゃまの隣の台に、不良っぽい姿の若者が陣取った。しばらく打つと、大当たりが・・・。

「・・・これで、よし・・・。」

同じ台の当たりを吸い上げ、隣のお仲間に渡す手口である。

当たりが抜き取られたお坊ちゃまの台には、代わりに隣の台の分の何でも無い信号が送られていた。

「近くの同じ台でしか使えないのが、難点だな・・・。同じメーカーなら、離れた台同士でも可能なように、メーカーに改善要求出しておくか・・・。」

・・・・・・・。

結局お坊ちゃまは、数万円を吸い上げられ、店を後にした。

「224番台、プリンセスご入場です・・・。」無線が届く。

「・・・では、先ず、大当たり・・・と・・・。」

小柄で勝気な雰囲気の若い女性は、短めの髪を揺らし喜んだ。「最近、ついてるなー。」

来店を習慣化させる為には、ある程度の工夫が要る。

大勝を体験させ→勝つことの難しさを体験させ→「なかなか勝てなくても勝てる、大勝すれば、多少は元が取れる・・・」と「思わせる」習慣付けである。

その上で、性格・金銭状況等を調べ上げ、ご指定管理者名簿に登録する。

後は、お坊ちゃまと同様の手口で、吸い上げる。お金に困らせ、お仲間融資先金融機関の広告をポストに投函する。お金を貸し出し出来てしまえば、風俗嬢候補の出来上がりである。

プリンセスは、その調教の第一歩を仕掛けられていることなど気付く訳も無く、能天気によろこんで店を出た・・・。

この店では、百数十名の管理お得意さまを抱えていた。

多数の客を見張り、客が台を離れないように、遠隔でスーパーリーチ等を送り込み、千円でも余分に吸い上げる仕事は、大変だが、幹部要員は吸い上げ出来高も送り出しお嬢の数も評価対象になっている。

エリートの一員である限り、成績が悪いことは、許されていない。

・・・・・・・。

翌日、幹部要員の車は、地元警察関係者の車の隣に止まった。

月一度のお決まりである。

「お嬢候補はどうだい?」

「上物が一人、まあまあが二~三人。・・・最終段階です。後、新しい上物が調教開始です。仕上がったら、次々ご連絡しますから、おたのしみに・・・。」

「成り立てに限るからなぁ・・・。」

近隣パチンコ店を管轄する警察関係者は、上がりのお礼を受け取り、直ぐに立ち去った。

摘発されているパチンコ店・風俗店には、共通点があった。

人脈・お礼無しである。

警察関係でも関係部署へは、積極的にお仲間を送り込んでいる成果で、利益は確実に増えていた。

「安いものさ。どうせ、半分は、お嬢で戻ってくる。・・・」幹部要員は、タバコをふかしながらつぶやき、カーステの音量を上げた。

窓を閉めた高級車の中に、シンフォニーが響く。

満足そうな笑みを浮かべながら、幹部要員は報告に向かった。

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某全国放送テレビ局にて・・・。

「『ニュース朝』の取り上げ記事と、コメンティーターはどうなっている!?」

「ハイ!現体制賛美の為、美しい記事を用意してあります・・・。

例えば・・・、『サッカー選手、靴磨き少年に車をプレゼント!』・・・。」

「美談だなぁ・・・。」

「ハイ!コメント内容も仕込んであります・・・。

『子供が選手の試合用シャツの方がイイ!・・・と言えば、伝説なのに・・・!』・・・と飼い芸人に言わせるように・・・。」

「良い、良い!現体制が、より、美しく感じられる!」

「間違っても、『餓死するような人々が居る人間社会で、車が余るような大金持ちをつくる事はオカシイ!』などと言う、『本質論』を愚衆が考えるようになっては、いけませんから・・・!・・・その辺は、慎重に仕込んであります・・・。」

「本質の解った賢いディレクターが居ると、安心だな!今宵、飲みに行くか・・・?」

「ありがとうございます!」

・・・・・・・(続く)・・・・・・・。

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某音楽プロダクションにて・・・。

「指導者様から、また工作資金集金のご要請が来ているぞ。仕込みはどうだ・・・?」

「ハイ!ばっちりです。今度は、ノリノリのわかり易いテンポの単純ロックに、『上を目指せ!考えるな!・・・夢は掴める・・・!』と、愚衆に『超クラス、大金クラスこそ成功者だ!』という刷り込みを行い、当面の現場労働に疑問を感じさせず働かせる応援歌を用意してあります。

マタマタ愚衆どもは、我が支配者血統族の生活を羨ましがり、成り上がり要員として仕込まれている同胞以外は成り上がれる訳も無いこの社会で、我々同様の生活を夢見て、奴隷的労働に疑問も抱かず、愚衆としての毎日の生活を送りながら、我らが与える曲を買い、献金するでしょう・・・。」

「大枚が集まりそうか?」

「何時もの通り、大丈夫です。今回も、同胞が支配している携帯会社とのコラボです。宣伝もバッチリ!同胞アーティストの歌も上手で、・・・大枚確定です。」

「そうか!それなら良い。何という曲だ?」

「お聞きになりますか・・・?」スイッチを入れる・・・。

「『超飛び!飛び!』です。」

曲を聴きながしながら、「愚衆にもわかりやすいタイトルだな。愚衆でもわかりやすそうな単純明快さもある。テンポも良い。コレは大枚が集金出来そうだな!指導者様への献金をしても、余りそうだな・・・。フッフッフッフッ・・・。前祝いにアーティスト希望の愚衆若姫と宴を設けるか・・・。」

「ハイ!売れっこ無い曲を、売ってやるという空手形で、何でも言う事を聞く愚衆姫なら、毎度毎度、よりどりみどり・・・ですから、飽きませんしね!おまけに、どんな事でもやりたい放題!・・・」

「偶に、反抗する阿婆擦れも混じっているがな。」

「その時は、処分ですよ・・・。何時も通り・・・。」

「同胞の判定で何でも自殺・・・。バレそうな時は、下っ端に犯人役を行わせれば、良いだけだしな。・・・犯人役にくれてやる大枚もどきなど知れたもの・・・。必要なら、また愚衆から集金すれば良い・・・。」

・・・・・・・(続く)・・・・・・・。

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胎動・・・。

十数年前、某元中小企業の実験室では、空間強度測定実験が行われていた。

分離素材で区切ってある特定空間内に発生させた電磁波を検知し、その歪み・エネルギー状況から、空間維持限界を探り出す実験は、今、佳境を迎えている。

「この程度の分離素材で、こんなにはっきりとしたデータが取れるなんて・・・!」

「事実は小説より奇なり・・・だね。」

「これで、重力制御も見えて来た・・・。」

「ああ、意外とハードルは低かったな・・・。」

「意外にね・・・。」

「時空の浮き袋を製作すれば、スペースシャトルなんて、無駄の塊・・・。」

「戦いでは無く、理解の勝利だね。」

「でも、制御を間違えると、危ないんじゃないの・・・?」

「当然さ。変な使い方を封じる為には、先ず、人類の精神的進化が必要になる。」

「地球を消滅させる武器としても使用可能だから・・・?」

「使い方を間違えれば、そんなモノで済まないかも・・・?」

「宇宙の大迷惑・・・て訳か・・・?」

「下手すると・・・ね。」

「どうする・・・?この先・・・?」

「とりあえず、万一の時の自滅消滅装置までは、作っておこう。地球消滅程度で済むように・・・。」

「其処から先は・・・?」

「人類の精神心理の進化待ち・・・ってところかな・・・。」

「でも期待出来るの・・・?」

「我々が、こんな技術を持てるのだから、同様に、精神心理の進化のロジックだって、色々なところで発芽してる・・・んじゃないのかな・・・。」

「そうだと良いけれども・・・。」

「まぁ、宇宙の大迷惑となるくらいなら、地球だけ消滅・・・というところまでは、作っておくことにしよう・・・。」

「私たちも消滅しちゃうんだよね・・・。」

「当然さ。・・・でも、人類が、侵略・略奪競争で宇宙を荒らすのよりマシだろ!」

「どうなるのかなぁ・・・人類・・・。」

「なるようになるさ!」

「消滅器の完成まで、どのくらいかかるかなぁ・・・。」

「まあ、のんびりやって、3~4年ってところかな・・・。」

「それより、時空の浮き袋、商品化して大儲け・・・って言うのが良くない???」

「それじゃ、巷にゴマンと居る人類滅亡加速仕事を行う者たちと同じだよ!」

「どうして・・・?」

「大金持ちを見れば、羨ましくなるだろ!当然、ボクも私も・・・の大競争さ。お金目的の為に、用でも無いモノが量産されてしまう一因になるだけさ・・・。」

「お金を放棄すれば・・・?」

「権力者の道具になるだけ・・・。」

「やっぱり、進化待ちしか無いか・・・。」

「日の目が出ると良いけどなぁ・・・。」

「消滅じゃ目も当てられないよ・・・。」

「ウチらも情報やる・・・?」

「適性の無いことやってもなぁ・・・。」

「ヒントぐらいなら、流せるんじゃない・・・?」

「まぁ、自滅消滅器完成後なら、どうせ暇だし・・・そうしたら、やるか・・・?」

・・・・・・・(続く)・・・・・・・。

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某文部科学省にて・・・。

「事務官!どうしてダメなのですか!?」

「こんな教育指導要項案が認められる訳が無いだろう!何だ?!この現実教育とは!・・・」

「このままでは、この国は滅びてしまいます!もう、遅すぎるくらいです!」

「ダメ!ダメ!・・・前例通りのモノに作り直して来い。今週中だ!」

一礼し、扉を開けて出て行く部下を見送り、S田は自らの携帯電話を手に取った。

「やぁ!I田・・・。おまえの望み通り、今年も前年通り・・・だ。今日あたり、また、一杯やるか?・・・」

宗教系政治団体の国会議員I田は、答えた。

「イイですなぁ・・・。お好きな若姫も準備しておきますよ・・・。」

「A弥と、美○でも頼むよ。」

「わかっております・・・。それじゃ、何時もの場所で・・・。」

配下の宗教団体員であるA弥と美○の下へ、同様の内容の電話が、教祖の声で届く。

「魂の格を上げる為のお仕事じゃ。何時もの場所へ6時半。ご先祖の霊には、私から贈り物を届け、あなた方の現世でのご活躍をご報告しておくよ。御神様にもご報告申し上げておくから、安心してご奉仕に励みなさい・・・。」

A弥は、携帯から聞こえる教祖の声に頷き、焦点の定まっていない目のまま笑みを浮かべた。

○美は、吐き捨てるように、「マタ、おジンの相手かよ・・・!」と呟き、続けて「まあ、イイっか!あいつ、下手じゃないしね・・・。」と言いながら、ブランドバックの蓋を開け、化粧ポーチを取り出した。

「宗教という現世利益のあるありがたいツールを、歴史・文化の枠へ放り込んでたまるか!」S田は、自らの携帯で増えている口座残高を確認しながら、今宵の宴を思い浮かべた。

I田の命令でS田に振込みを行った秘書は、「日本の国をよりよくする為の工作資金として・・・」というI田の言葉を信じ、若干の問題はあるが、日本国の為に必要な良い事をしている・・・という認識しか持っていなかった。

・・・・・・・(続く)・・・・・・・。

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実動工作員監視班の現場から・・・。

バケや同胞医者の工作活動、及び、ターゲットは、常に監視されていた。

バケに先立ち、ターゲットの住処に忍び込んだ監視班の工作員は、容易な発見が困難なアンサーバック式盗撮・盗聴器を仕掛けた。

同時に、ターゲットと工作員の周囲に、監視工作員とは別の監視班の人間も配置されていた。監視工作員の行動も監視され、その逆もあり、・・・全ての人間が一度期に裏切らなければ、裏切り行為等も発覚するようなシステムになっていた。

監視班の人間は、ターゲット宅が侵入困難な場合にも好都合である。マンション等なら、上下左右の部屋を専有し、壁・窓伝いに情報を得る事でもかなりの情報が得られる。不快工作活動等も簡単に行える。

工作員・ターゲットの持ち物には、アンサーバック式発信器が仕掛けられていた。

監視班は、イベント情報・状況を意図した時、常に得ていた。

それらの情報は、指導者へ上げられ、指揮は全て指導者が取るようなシステムになっている。

・・・・・・・(続く)・・・・・・・。

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工作実動部隊の現場から・・・。

「報告します。愚民○タイ忙殺工作終了・・・。」工作員コードネームバケは、携帯電話の暗号メールで変換する前の言葉をつぶやいた。もちろん、周囲には誰もいない事を確認済みだ。

工作員バケたちが行った事は、以下の通りだ。

ターゲットが訪れる立ち食いソバ屋のアルバイトに、親と嘯き、ターゲットの持病の治療薬だと偽り、飲まない薬を飲ませるように、インシュリンを渡した。もちろん、アルバイトは、操り人形化している人物だ。

善意のつもりで薬を混ぜたアルバイトは、何も知らない。

ターゲットとされた少年が電車の中で倒れたのは、それから十数分後だった。

若さゆえ、フラフラになりながらも子供時代から馴染みのある医者へ行けた、ターゲット少年・・・。

同胞工作員の医者は、指導者からの言いつけ通り、ビタミン剤を打ち、治療を演出した。

インシュリンで混乱している体内にビタミン剤が加わり、ターゲット少年は、膵臓を著しく傷める事となった。

油物を食べると吐く・・・。そこでまた医者へ行く。医者は、吐くから・・・と胃ばかり調べる。

大量のレントゲンを撮り、放射線やバリウム・与えられた胃薬等による負荷で益々症状は悪化した。

当然、少年は訴えた。

「未だ、変だ。・・・」

ここからが、工作員の演技の見せ所である。

「何処も悪く無い。それでも変だと言うのなら、神経科に行ってもらうしか無い。紹介状を書く・・・。」

同胞精神科医が、待っていたターゲットに用意してあった薬を飲ませたのは、その数日後だった。

カルテ上に記した薬とは全く違う、工作活動用の記憶消滅剤を飲まされたターゲットは、病気であった事も忘れ、一時的に症状が回復したような状態となった。

しかし、数日で当然の如く、ぶり返す。そこで、更なる検査を行い、治療だと、電気ショックが行われた。

人格破壊を目的とされた電気ショックにより、ターゲットは、問題行動を起こすようになってしまった。

もはや、ターゲット少年の訴えは、社会性を失い、本当の親でさえ、医者を信じるようになってしまった。

待っていましたとばかり、催眠実験が始まった。

自虐性を刷り込み、自殺を誘うように催眠誘導が繰り返された。

そして、再び、工作員バケに指令が出た。

ターゲット少年の周囲に「不快・不安と無意識が感じる物事をばら撒け・・・」。

悪臭・細かなゴミ・意図的な不快騒音・砕かれた汚物・部屋や使用物への小さな傷・知らず知らずの内に視覚に入る先鋭物・意図的に不味くされた食品・周囲にばら撒く事実無根の中傷情報・・・。

バケにとって、鍵になっていない鍵しか付いていない共稼ぎの家に侵入し、工作活動を行うことなど容易い事だった。

そして、3ヶ月後・・・。

バケは、ターゲットをに声をかけ、「マンションの屋上に幸福への出口がある、特別な君なら、闇夜に飛び込めば、新たな世界へ行ける・・・」と、呪文を授けた・・・。

ターゲットが自殺したのは、数日後だった。

周囲の誰もが、何の疑問も持たなかった。

愚民忙殺の実験は、成功した。

それぞれの状況での数多くのデータも収集出来た。

愚民○対応策として、どの程度の物事を行えば、どの程度の成果が得られるのか・・・?のデータがまた充実したのだ。

・・・・・・・(続く)・・・・・・・。

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